合唱部員の合図で社長の前に現れた北高関係者。そして…
予定通り、まずは北高の現役合唱部による合唱イベントがスタジアムDJによりアナウンスされる。同時に、恩田が歩いてピッチに登場。続いて合唱部の生徒8名が登場し、2曲続けて合唱する。ここまでは恩田にも知らされていることだ。
合唱部が歌っている間に他の北高関係者がゾロゾロと、しかしこっそりと裏側の通路を通って恩田の死角に待機。合唱部の歌が終わった。部員のひとりがマイクで恩田の誕生日であることを観客に伝える。それを合図に北高関係者が全員小走りで恩田の前に現れた。
目を丸くしてそれを見ている恩田。一人ひとりの顔を確認するように見渡している。言葉は一切ない。サポーターのひとりがマイクでスタンドに向かい、協力を求める。
前唱に合わせてスタジアム中が「ハッピーバースデー・ディアさとし」と歌っている。
ホームの観客だけではない。アウェイの愛媛サポーターも手拍子をしながらこれから対戦する相手クラブの社長の誕生日を共に祝福している。止むことなく吹き続けている強い風が目にしみてサポーターの涙を誘う。
バースデーソングが終わると大きな拍手がスタジアムを包み、同時に岐阜サポーターが今シーズン前に作った「恩田聖敬チャント」を歌い始める。それに合わせて鳥村に促された真崎建二(まざきけんじ)が恩田に花束を贈呈。
しかし、残念ながら恩田はもうその花束を自分の手で受け取ることができなくなっている。となりに付き添っている山﨑が代わりにそれを受け取る。続いて愛媛サポーターを代表してカエルの一平くんがバースデー・プレゼントを手渡し恩田と熱いハグ。
花束贈呈役を担った真崎は恩田の北高時代の同期生であり、現在はその北高で保健体育の教師を務めている。
「クラスは違いましたが同学年ですから恩田君のことはもちろん知っていました。僕は体育会系で彼は合唱部でしたけど、だからといって彼はスポーツを嫌うふうでもなく、学校のスポーツ行事があればちゃんと真面目に参加して頑張っていたことを覚えています。
彼がFC岐阜の社長になると知った時はかなり驚きましたけど、当時から真摯な人でしたからいいんじゃないかとすぐに思いました。病気のことをニュースで知った時は言葉もないくらいのショックで彼にメールをしました。今回このような素晴らしい機会を与えてくれたことをとても嬉しく思います」