「君もやるもんだね。かわいいじゃん」
東京ヴェルディユースの92年組を継続して取材すると決めたのは、2011年初春のことだ。僕が書きたかったのは、ビルドゥングスロマン(成長の物語)である。あるいはサッカーに懸ける青春譚。
もちろん、読者の方々の好きなように読んでもらって構わない。人によっては、何かとてつもなく大事なものを見つけてしまった人の、その先にある地獄を浮かべたかもしれない。
あらかじめ定めた終わりが見えてきて、ささいなことが急に輝いて見えることがあった。
昨秋、大学リーグの終盤戦、味の素スタジアム西競技場にいた。第2試合の対戦カードは、慶応大 vs 中央大。山浦新はスタメンで出場し、渋谷亮はベンチスタートだった。
僕の横には、第1試合に出場し、着替えて出てきた相馬将夏がいた。選手をよく知っている人とおしゃべりをしながらサッカーを見るのは楽しいものだ。
「見た? いまのプレー。シンくん、足裏でボールを引いてかわしたぞ」
「やっぱ、シンは巧いっすねえ」
「なぁ、ちょっと性格が真面目すぎるけど」
「リョウ、出てこないかな」
「ベンチで誰よりも声を出してる」
「あいつはほんとにすごい奴ですよ」
しばらくして相馬はふらっといなくなり、笑顔の素敵な女の子を連れてきた。たまたまデートの待ち合わせをしていたのだろう。彼女だと紹介され、「君もやるもんだね。かわいいじゃん」とご挨拶。
彼女はサッカーにはあまり興味がないようだったが、3人並んで一緒に試合を見ていた。心地よい風が吹き、ピッチの緑がキラキラしていた。