メッシに合わせるエンリケ、チャレンジ旺盛なアンチェロッティ
両チームを指揮するルイス・エンリケ(バルサ)とアンチェロッティ(レアル)両監督に関しても岡田氏は、監督を生業とする者だからこそ分かる思考のメカニズムや苦悩に推察を巡らせてくれた。
「バルサの監督をするのは、大変だと思うよ。だから俺、やらないもん。オファー来ないか(笑)。バルセロナの監督はメッシという存在がいることをわかって、ある程度それに合わせる覚悟をして引き受けているはず。そうでないと引き受けられない。
ヴェンゲルもよく言っていたけど、監督の一番大切な仕事は、そのチームのエースとどううまくやっていくか。うまくやるのと、すべて合わせるのは別。うまくやろうなんてしていたら、チームにならない。ルイス・エンリケでもうまく合わせているけど、腹をくくってはいるはず。監督で一番大事なのは覚悟なんだよ」と、バルサにとって唯一無二の存在であるメッシを引き合いに出して、ルイス・エンリケ監督の苦悩と指揮官の葛藤を説明する。
対して、あまりの人当たりの良さから岡田氏に「こいつ監督としては成功しないかもしれない(笑)」と思わせたアンチェロッティ監督。岡田氏曰く、世界の名立たる名将の多くはそのパーソナリティに癖があり、強烈なインパクトが必要とのことだが、アンチェロッティにはそれがなく「優し過ぎ」て「まとも過ぎ」るらしい。しかし、アンチェロッティ監督はその一見監督不向きなパーソナリティで数々の功績を残す稀有な存在だと話す。
「僕がアンチェロッティの選手に同じことを言って、同じ練習をしても、同じようにはならない。自分が醸し出す雰囲気だったりキャリアだったり色々なものがあって、その人のやり方を持たなければならない。アンチェロッティは自分のやり方を通す強さを持っていたんだね。人の真似をするのではなく、自分は自分の性格とキャリアで俺の指導はこうなんだと。選手はアンチェロッティのことを尊敬していると思いますよ」。
そして、幾多のクラブを渡り歩き、きらびやかで偉大なる功績を納めてきたアンチェロッティ監督が、レアルという銀河系軍団で目指すのが、新スタイルの確立だ。「監督も、クソと悔しがって新しいことに取り組むことがある。モウリーニョがチェルシーにいた時、お前のサッカーは面白くないと言われて、バラックを獲り中盤をダイヤモンドにして、トップ下に置いてやろうとした。でも、ダメで結局戻した。もっとこういうのがやりたいと思っても、その監督には監督の器がある。アンチェロッティは、その新しいチャレンジに成功している」。