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Jリーグ 10年前

石﨑信弘イズム―矜持をたずさえ歩む道―

text by 海江田哲朗 photo by Tetsuro Kaieda , Kazuhito Yamada / Kaz Photography

金持ちクラブ、貧乏クラブ

――「身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ」ってやつですね。

石﨑「それで、すぐにアウェイの愛媛戦じゃったのよ。中3日で。お金のあるクラブだったら鳥栖と愛媛の試合が続けば」

――現地に泊まりますよね。

石﨑「じゃろ? でもうちはお金がないからいったん帰ってきた」

――まあ、向こうで4泊して、かつ練習場の手配などを考えると容易ではないんでしょう。

石﨑「そこの計算がどうなっとるかわからんが、短期間で長い距離を移動し、愛媛戦はメンバーをほぼ元に戻して戦った。結果は0‐4の惨敗。昨年42試合のなかで一番ひどいゲームをやってしまった」

――うわ、きっつい。

石﨑「その次が京都戦で、鳥栖戦のメンバーにごっそり入れ替えた。本格的に上昇気流に乗ったのはそこからだね」

――3‐4‐3のフォーメーションが確立したのは、この少し前の時期です。第30節の水戸戦の途中から切り替えましたよね。

石﨑「後ろを3バックにして、守備のときは5枚で対応するやり方はずっと頭にあったよ」

――タイミングを窺っていた?

石﨑「J2は3バックのチームが多く、どこかで変えなければ苦しくなるだろうなと。それで一度3バックにしたら最後までその形でいくと決めていた」

石﨑信弘イズム―矜持をたずさえ歩む道―
「見極めるタイミングが重要」と語る石崎監督【写真:Tetsuro Kaieda】

――うまくいかなかったら元に戻すのは下策。

石﨑「監督がブレているように見えたら悪影響が大きい。理想では、試合中に4バックと3バックを状況に応じて使い分けられたほうがいいんだよ。長年指導しているチームなら平気でそうする。選手との信頼関係が築けているならできるから。だが、山形ではその域にまだ達していない。見極めるタイミングが重要じゃったね」

――初めて連勝を記録したのが、第37節の岡山戦(4‐1)となっています。秋も深まった10月中旬とはいかにも遅い。

石﨑「その間に天皇杯があった」

――北九州戦ですね。ホームで1‐0の勝利を収めています。ということは3連勝か。通常ならリーグ戦優先でメンバーを落とすところです。

石﨑「ところが賞金が懸かっとった。勝ってベスト4進出なら2000万円!」

――デカいですね、それ。

石﨑「うん、クラブにとってデカい」

――フロントの方々からも頼む! と。

石﨑「そう。それまで入場料収入が伸び悩んで、このままでは来季の編成にも影響が出かねない状況だった」

――クラブ経営のリアリズムを痛切に感じます。で、最終節の東京ヴェルディ戦に敗れ、6位でフィニッシュしました。

石﨑「そうだね」

――これ、完全に結果論なんですが、最終節で負けといてよかったという考え方は?

石﨑「それはないじゃろ。だってヴェルディに勝ってれば、5位でプレーオフ準決勝はホームでできたんだよ。入場料収入もがっぽり入った」

――しかし、そうなっていたら磐田戦の山岸選手の劇的ヘッドはおそらく生まれなかったわけで。

石﨑「ホームの期待を受けすぎて負けとったかもしれんね。そればっかりはわからない」

――では、いよいよ昇格プレーオフの話に移りましょうか。いや、あれは本当に傑作で……。

石﨑「ちょっと待った! その前にもっと大事な話がある」

――えっ、なんですか?

石﨑「天皇杯準決勝の千葉戦があったじゃん」

――でしたね。なぜか大阪まで行って。

石﨑「縁もゆかりもない大阪で、そりゃお客さんも入らんよ」

――しかも雨まで降られて、えらく寒かったんでしょ?

石﨑「ほんとに寒かった。だが、その試合に勝てば5000万円」

――またお金の話ですね。

石﨑「うちは常にお金の話がついて回るんよ。目の前の5000万を全力で獲りにいくぞ、というのに加えて、連敗してプレーオフに臨むのは避けたかった」

――なるほど。こうなったら全部ベストメンバーで行くと腹をくくったわけですね。

石﨑「賭けじゃったね。コンディション的にきつくなるのはわかりきっていたけど。わしらより日程に余裕のある千葉は、天皇杯でメンバーを半分くらい落としてきた」

――あちらは財政的に余裕がありますから。目先のお金より、プレーオフに集中したんでしょう。

石﨑「そんなところじゃろな。もし千葉に負けとったら傷だらけよ。5000万を取り逃して、チームも疲弊して。あそこを小細工抜きで勝ったことは本当に大きかったと思う。それなのに誰も褒めてくれん!」

――わかりました。大きく書いておきましょう。欲しいものは全部掴みに行くのが男の潔さだと。

石﨑「よろしく」


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