選手たちへの信頼
――本日はキャンプ中のお忙しいなか、ありがとうございます。まずは昨季の戦いについて、ポイントとなったゲーム、出来事を中心に振り返っていきたいと思います。シーズン前半はなかなかエンジンがかからず、10位以下の順位に停滞していました。
石﨑「チャンスはあるけど、点が取れない。そういう試合がけっこう続いたんじゃないかな。シュート数だけなら、ほとんど相手より上回っていた。まあ、チャンスとシュートはまた違う話なんだけど。結果に結びつかなくて苛立っていた時期じゃったね」
――ディエゴ選手のことは僕も東京ヴェルディ時代のプレーでよく知っていますが、最初の時期はある程度我慢して使っていましたか?
石﨑「シーズン序盤は身体が絞れていなかったし、途中で下げたりしながら継続的に使っていた。あいつの良さ、本領を発揮したときの凄みは、柏レイソルで一緒にやったわしが一番よく知っとるから」
――チームにフィットしてからのプレーを見て、すごいなあと思いましたよ。彼は名門パルメイラスの育成組織で育ち、ブラジルの年代別代表に選ばれたくらいの選手ですから、能力は折り紙つきなんです。ただ、あの選手を走らせられる、献身的にプレーさせられる監督はそうはいない。秘訣は?
石﨑「それはディエゴに聞いてよ」
――特別なコミュニケート術があったり?
石﨑「みんなと同じ。平等に扱っとる」
――奥さんに何かプレゼントしたわけでもないでしょ?
石﨑「してないしてない」
――う~む。
石﨑「わしのこと好きなんだよ」
――それはそうなんでしょうけど。
石﨑「わしもあいつ好きだもん。いままでいろんなブラジル人と仕事をしたけど、たぶん一番好きだね。性格とかほんといい奴」
――相思相愛。
石﨑「昔ね、こんなことがあった。06年、わしがレイソルの監督で、たしか水戸戦だったかな。真夏のナイトゲーム。前半押されまくって、ハーフタイムに選手を一生懸命怒ってたんだよ。ディエゴだけではなく全員を。水戸のロッカールームはクーラーがないから扇風機をブンブン回していた。そしたらディエゴが通訳とぼそぼそ話していて、頭にきてちゃんと聞けと扇風機を蹴ったら、羽根がビューンッとディエゴのほうに」
――危ない!
石﨑「狙ったわけじゃない。たまたまよ」
――びっくりしたでしょうねえ。まさかの凶器攻撃。
石﨑「後半のディエゴのプレーがすごかった。ハーフウェーラインの手前から、味方3人くらいとワンツーワンツーで中央を割って、右足でゴール。ベンチまで来て、わしに向かって吠える吠える」
――おいオヤジ、いますぐ扇風機買ってこいや! 違うか。
石﨑「おまえ見たか、バカヤローとか言うてたんだろうね。わしは点が入っても喜ばんから知らん顔。それで結局、1‐0で勝った」
――おもしろい話だなあ。
石﨑「そのあと通訳の人に一応相談した。わし謝っといたほうがいいかな? 羽根が飛んでいったのは偶然なんじゃくらいは伝えとこうかと」
――不可抗力だったんだと。
石﨑「ディエゴはそんなの全然気にしないから大丈夫ですよ、と通訳さんに言われてほったらかし。その通り、次の日にはけろっとしてたね。そういうところも好き」
――恐怖だけで人の心は掴めませんから、そうした付き合いのなかで石﨑監督の情にほだされたんだろうと思います。ところで、シーズン中盤以降でターニングポイントとなった試合を教えていただけますか?
石﨑「天皇杯4回戦、アウェイの鳥栖戦じゃろうね」
――9月10日、J2第30節の水戸戦から中3日で行われたゲームです。
石﨑「試合の間隔が詰まっていたこともあって、それまで出番の少なかった選手を使ったんだよ。山﨑雅人、キム・ボムヨン、山田拓巳、川西翔太、彼らが大活躍して勝った。これがのちのち効いてくる」
――川西選手は躍進のキーマンとなっていくわけですが、僕は恥ずかしながら存在を知りませんでした。
石﨑「わしも山形に来るまで知らんかった。アタッカーとして能力は高いけどなかなか自分を出せない、ディフェンスを頑張れない、そういうタイプの選手だったね。それにしても鳥栖戦のプレーは抜群じゃったなぁ。試合後、記者から変貌の理由を訊かれたら、『自分を捨てた』って言ったらしい」