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Jリーグ 10年前

[INTERVIEW]山岸範宏―運命の選択―

劇的な結末は驚きに満ちていた。J1昇格プレーオフは、山岸範宏を“主役”に選んだ。モンテディオ山形に正式加入した守護神に話を聞いた。

text by チェーザレ・ポレンギ photo by Shinya Tanaka , Toshiro Suzuki/Kaz Photography

ベテランの味

[INTERVIEW]山岸範宏―運命の選択―
山岸範宏【写真:Shinya Tanaka】

――GKは他のポジションと少し違います。イタリアでGKをやる人には2種類いて、いい意味でクレイジーな人と、すごく落ち着いている人のどちらかです。山岸選手は自分をどちらだと思いますか。

山岸範宏(以下、山岸) 僕は両方の要素を持っていると思います。クレイジーというか、日本語で言うと「変わり者」と、どっしりとチームに安定感を与える役割と。

――責任がかかるポジションで、ストライカーであればミスがあっても次がある。一方でGKは一度でもミスをすると難しい立場になります。

山岸 チームの中で非常に大きな責任のあるポジションですが、振り返るとGKでなかったら自分はプロになれていなかったかなと思います。

――ストライカーでもいけると思わなかった?

山岸 ないない(笑)。GKでなかったらここまでサッカーを続けてこられなかったかもしれません。

――フィールドプレーヤーは常に動き続けてボールに関与しますが、GKはボールが全くこないこともあります。そこで集中力を保つのは難しいのでは。

山岸 時間帯によって、たとえば相手が10人になって自分たちが押し込む状況も当然あります。その中でも自分にできる準備があって、90分の中で全く仕事がなくなる時間帯があるとは思いません。

 ボールを触らない時間帯に、自分のポジショニング、ゲーム状況の把握、チームのメンバーがどういう状態か、それに時間とスコア状況、様々な要素を含めた頭の中の準備であったり、自分の体の準備であったり、いろいろやることはありますよ。

 押し込むことはカウンターのリスクもあるので、難しい状況であるのは間違いないです。いざ、その時に最善の対応ができる準備をしておかなければいけないと思います。

――メンタルに左右されるポジションでしょうか。

山岸 そうです。GKは絶対に自信を忘れてはいけません。

――2014年のシーズン開幕は浦和レッズの選手として迎えました。しかし、出場機会がなく、6月に山形移籍を決断します。ビッグクラブからスモールクラブへの移籍で、メンタル面にどのような変化があったのでしょうか。そして、どのような経緯で移籍を決めたのでしょうか。

山岸 浦和から移籍するときは「J2だから」とか、「クラブの規模が小さい」とか、そういったことは全く考えませんでした。昨シーズンは自分にとってキャリア14年目で、初めての移籍だったので、36歳という年齢で新たなチャレンジができる喜びと同時に、感謝がありました。僕を受け入れてくれた山形に対して、昇格するために自分にできることを何でもやる決意で移籍しました。

――結果、J1に昇格できました。道のりは簡単ではありませんでしたが、シーズン中は絶対に昇格できると信じていたのでしょうか。

山岸 僕が移籍した時はずっと10位から12位あたりにいて、その後の2、3ヶ月は勝ったり負けたり。連勝ができていなかったんです。いい試合をした後でも勝ち切れなかったり、押し込んでいるのにドローになってしまったり、勝負強さが続けて発揮できない試合が多かった。まずは昇格よりもプレーオフ圏内に食い込むことが一番大事だと思っていました。常に6位以内を戦っていくことが昨年の6月から8月頃の最も近い目標でしたね。

――当時はベテランとして、チームの状況をどのように見ていましたか。

山岸 山形には、能力は高いのに自分の意思を周りに対して表現するのがあまり得意でない選手が多かったですね。

――日本のサッカーではよく感じます。先日のアジアカップや昨年のブラジルW杯での日本代表、昨年の浦和レッズもそうですが。

山岸 なぜですかね。日本人の気質と言ってしまえばそれまでなんですけど、アジアカップでもW杯でも世界と戦っているわけだから、そこはやはりワールドスタンダードに持っていかないと。逆に言えばそこは日本人にとっての伸びしろなのではないでしょうか。

 僕の考えで言えば、サッカーには正解がありません。チームメイトに伝えたのは、サッカーには○も×もないし、100点も0点もないということですね。とにかくトレーニングの中から、味方に対してどういう動きをして、互いに要求し合わなければ質の高いものってできないじゃないですか。

「俺はこうしたかった。じゃあどうだった?」というピッチの上でのコミュニケーションをもっと取っていこうというのは伝えましたね。

――6月に加入して、山岸選手がそのことをチームに伝えていく中で、変化はありましたか。

山岸 僕自身は言い続けましたし、決して難しいことではありません。変化は少しずつですね。昨日できなかったことが今日できるものではないですから。それが自然だと思うんですけど、お互い要求し続けたことが徐々に浸透していった実感はあります。

 僕が移籍するより前から山形にいた選手が僕のことを受け入れてくれた。それが非常に助かりましたし、感謝していることですね。選手としてはイレギュラーな状況だったと思うんです。シーズン途中でいきなり一番年上になるGKが移籍してくるのはどの世界に行ってもそれほどあることではないでしょ。

――経歴だけ見たら選手たちは萎縮してもおかしくはないですよね。

山岸 萎縮と言うより、「なんでこんな年をとった選手が来て……」と思われるかもしれないですよね。

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