NAKATAを徹底マークせよ!
2001年8月8日に行われたチャンピオンズリーグの予備選プレーオフ。相手は中田英寿を擁するイタリア・セリエAのパルマだった。現在でこそ破産危機が話題にあがっているパルマだが、当時はイタリア代表の主将カンナバーロをはじめ各国の代表クラスが名を連ね、日本代表の主力でもあった中田英寿がトップ下で司令塔を担っていた。
一方のハリルホジッチは2000-01シーズンに昇格組のリールをリーグアン3位に躍進させ、チャンピオンズリーグのプレーオフ出場権を獲得。しかし大きな補強も無いまま、イタリアの強豪とのホーム&アウェイに挑んだ。
パルマのエンニオ・タルディーニで行われた第1レグ、ウルビエリ監督は大方の予想通りトップ下に中田を配置する[3-4-1-2]を採用し、2トップにイタリア代表のディ・バイオとセルビア代表のミロシェビッチが並んだ。対するハリルホジッチのリールは形としては193cmのFWバカリをトップに張らせた[4-5-1]だったが、スタートから中盤が奇妙なポジション取りをしていた。
ボランチの位置にいるMFダミーコが中田に密着でマークに付いたのだ。さらに中盤での組み立てを担うラムーシにも厳しくチェックする形でパルマの攻撃リズムを崩すリールはボールを奪った瞬間に数人の選手が縦のスプリントを繰り出し、カンナバーロ主将の統率するパルマのDFラインを脅かした。
リールの狙いはパルマの攻撃の大半で起点となるラムーシと中田のホットラインを完全に分断し、横パスとロングボールに頼った単調なパターンに終始させること。攻撃ではアルゼンチン代表の名手アルメイダとクレバーなラムーシが構える中央を囮に使い、サイドを突いてパルマがやや苦手としていたマイナスからのハイクロスでフィニッシュすることだ。
なぜパルマがマイナスのハイクロスを苦手としていたのか。3バックのうち、カンナバーロとアルゼンチン代表のセンシーニは高度な守備能力を誇るものの、DFとしては小柄であったこと。もう1人のジェトゥは屈強だが、横からの攻撃に対して、ボールウォッチャーになる悪癖があったことだ。ちょうど鉄壁を誇ったフランス代表DFテュラムが移籍し、ジェトゥが守備陣に完全にフィットしていない状況も、ハリルホジッチはしっかりスカウティングしていたはずだ。
その狙いが見事なまでにはまったのが47分の先制ゴールだった。ランランを中心に左サイドでパスをつないだリールは、ダミーコがボールを持って前を向いた瞬間に、2列目のランランが一瞬の動き出しでアルメイダの左を抜け、3バックの横にあるスペースで縦の浮き球パスを受けた。バカリのニアへの動きにGKフレイとディフェンスが引き付けられ、その外側に走ってきたバシールが右足を伸ばしてボールに合わせ、体ごとゴールに飛び込んだ。