Jヴィレッジを占領する車……
浪江町まで進んで引き返した。6号線を離れて坂下ダムへと向かったあと、常磐道へ進む。
坂下ダムの周囲は0.4~0.5μSv/h程度だが、底に沈んでいる汚泥の線量が高く、住民が帰還を敬遠しているという。作業員の仮設宿舎が立ちつつある沿道は0.2~0.25μSv/hと安定している。
「3月1日に常磐道が全線開通すると、作業員と一時帰宅のひと以外、降りるひとはいなくなってしまうでしょうね」
そういうと西氏は常磐道を降りる際、免許証を提示する。被災者支援による高速道路通行料金無料措置で、被災者である証拠を見せると、福島県内から首都高速に入るまで高速料金が無料になるからだ。
東京電力の火力発電所が立つその傍らにJヴィレッジが見えてくる。かつてJFAアカデミー福島の取材でこの場を訪れたことがある、クロード・デュソーさんを取材したのだ、と水を向けると、西氏は「デュソーさんが住んでいた部屋を借りているんですよ」と答えを返してきた。偶然のつながりに、サッカーの火がかろうじて途絶えていない気にさせられる。
復興の策定段階にあるJヴィレッジのコートは、車が占領したままだった。原状回復工事は2016~2017年頃からの見込みだ。屋内のソファには、作業を終えて帰ってきたものか、ぐったりと疲弊した作業員が埋まるように座っている。ここはサッカーをする状態にはない。
2018年にどうなるか。それまで、西氏とともに見守っていきたいと思う。
Jリーグが開幕した週末の3月8日、西氏は大阪高島屋でトークショーをおこなった。4日から9日まで開催されていた、東北の食と工芸を集めた「大東北展」に於けるひとコマだ。アルパインローズとして三種類のカレーなどを出展したブースを離れ、岡田武史元日本代表監督、ガンバ大阪DF今野泰幸とともに壇上へ。FC今治オーナーの岡田氏は、このイベントのためだけに大阪へとはせ参じていた。
登壇した三人は日本代表での思い出を綴った。印象的なエピソードは、やはり2010年。W杯南アフリカ大会前のスイス遠征で、岡田氏は日本から輸送した食材の荷降ろしを手伝った。裏方を労う気持ち。ピッチ内のみならず、スタッフのがんばりいかんで、チーム力が上下動することを知っていたからだ。