まぐれではないオーバーヘッド。一気に流れを引き寄せる
それでも、ワンプレーで試合を決められるのが、ケーヒルがただの“エース”ではなく“絶対的エース”といわれる所以だ。
この夜のブリスベン・スタジアムの中国応援団の「加油!」の掛け声がこだまするスタンドは、満員に埋まった。スタジアムの全体を見渡しても、黄色と赤の比率は、ざっと見渡しても6:4ほどはあったろうか。
試合中、時折、発する大音量の掛け声と揃いの赤いTシャツで存在感を発揮していた中国サポーターの大集団は、後半49分、ケーヒルのワンプレーで沈黙する。
ゴール前の混戦からこぼれたボールをケーヒルがオーバーヘッドキックで中国ゴールに叩きこむと、大歓声が悲鳴に、そして間をおかずに一瞬の沈黙が中国側スタンドを襲った。
試合後、昨年のW杯オランダ戦での振り向きざまのボレーシュートにも伍するそのスーパーゴールについて聞かれたケーヒルは「本能だね。W杯のゴールを皆がそう言うように、今日も、“まぐれ”だったのかも知れないけど」と謙遜してみせたが、まぐれでないことは、スローモーションの映像でのボールを追うケーヒルの鋭い眼光からも明らかだった。
65分に決めた2点目(大会通算3点目)は、ケーヒルの“トレードマーク”とも言うべき滞空時間の長いヘディングからのゴール。右SBのジェイソン・デービッドソンが上げたクロスを空中で相手に競り勝ちながら頭で合わせて流し込む「これぞ、ケーヒル」というゴールには、お馴染みの“ボクシング・カンガルー”のゴール・パフォーマンスが飛び出した。
その瞬間、スタンドのオーストラリア・サポーターのボルテージは最高潮に達した。
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