サッカーがさらなる悲劇を生んでしまうのか?
現大統領であるツチ族出身のポール・カガメは、虐殺が勃発すると、ルワンダ愛国戦線を率いて亡命先のウガンダから戻り、極度の混乱状態にあった国に安定をもたらすため、軍事力と政治力を駆使した。国の復興のために、彼が何よりも力を注いだのが、部族間の融和をはかることだった。以前は身分証明書に部族を記すことが義務づけられていたが、その制度は撤廃された。また大統領は熱烈なサッカーファンで、APRに資金も出している。フツ族とツチ族の選手が混じるAPRは、彼が掲げる部族間融和を象徴する存在なのだ。
そのことに不満を持つのがAPRのライバルチームであるレイヨン・スポーツのサポーターたちだ。「APRは軍と政府のチームだが、レイヨン・スポーツは俺たち市民のチームだ」と、チームカラーである青と白を全身にペインティングした熱烈なサポーターたちが叫ぶ。「ルワンダの人口の7割がレイヨン・スポーツのサポーターだ」とスポーツジャーナリストはいう。
市民のチームとはつまり、国の人口の84%をしめるフツ族を代表していることを意味している。ツチ族の大統領が支援するAPRは、フツ族にとってツチ族のチームなのだ。たとえAPRの所属選手に、フツ族出身者が混じっていても関係ない。
映画はAPRとレイヨン・スポーツの「ナショナルダービー」で盛り上がりを見せる。どちらのチームの選手もサポーターも興奮をあらわに、得点でも入ろうものならスタンドは熱狂のるつぼだ。だが、APRのチームカラーである黒白と、レイヨンの青白にくっきり分かれたスタンドは、「サッカーがルワンダを一つにする」とは言いがたい空気に包まれている。
この映画では、インタビューで一見冷静に語る一人ひとりの表情にぜひ目をこらしてほしい。人々の本音はどこにあるのか? 国の成人男子の大半が殺された虐殺の悲劇を、人々はサッカーによって本当に乗り越えられるのか? サッカーの力で人々は一つにまとまるのか? いや、むしろサッカーによって対立は深まっているのではないか?
そんな問いかけに対し、彼らの表情は口から出てくる言葉とは違う答えを物語っている。今こそあえて本音を語り合うこと、それが大虐殺を乗り越え、部族間対立を融和させるために重要なのだ、という一人のジャーナリストのメッセージは、とてつもなく重い。
奇をてらわず淡々と撮られてはいるが、濃密な内容のドキュメンタリーである。
【了】
■「FCルワンダ」上映スケジュール
2/7(土) 14:05~
2/11(祝・水) 10:00~
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http://football-film.jp/