不可解だった夏の大型補強
ただしファン・ハールには、喫緊の課題がもう一つある。プレミア奪還やCL出場枠の確保といった長期的なミッションではない。移籍市場でまともな「買い物」ができることを証明してみせることだ。
昨夏、ファン・ハールは1億5000万ポンド(当時のレートで約270億円)もの予算を費やして超大型補強を行ったが、その内実は疑問の残るものだった。
ルーク・ショーやデリー・ブリントを獲得したのは理解できる。ショーはイングランド人で最も将来有望なサイドバックだし、オランダ代表にも名を連ねるブリントは、ファン・ペルシー同様に、ファン・ハールが目指すサッカーの良き理解者でもある。
しかしマルコス・ロホやアンデル・エレーラなどは、およそ期待通りだったとは言い難い。おまけにファン・ハールは、センターバックや守備的MFの本格的な補強そっちのけで、ラダメル・ファルカオやアンヘル・ディ・マリアといったビッグネームを攻撃陣に加えてしまっている。ルート・フリットから「家を建てるのに、屋根から葺いてしまった」と酷評された所以だ。
ディ・マリアやルーニーなどはユーティリティー性の高い選手だが、攻撃的な選手をむりやり11人の枠に押し込もうとすれば、チームのバランスは必然的に悪くなる。ましてや今シーズンのユナイテッドはCLとも無縁で、ローテーションの必要にもさして迫られない。
皮肉な言い方をすれば、問題がさほど表面化しなかったのは、ディ・マリアやファルカオが怪我に悩まされたからに過ぎないともいえる。しかも忌憚なく言えば、1億5000万ポンド(約270億円)を費やしたほどの効果は得られていない。
ファン・ハールともあろうものが、なぜあのような筋の通らない補強をしたのか。謎は残ったままだ。「ユナイテッド=攻撃的なサッカーをするチームというイメージを保つために、あえて無謀な補強をしたのではないか」と邪推した人間がいたほどである。