評判倒れではなかった希代の戦術家という触れ込み
ベンチコートのポケットに手を突っ込み、寒風に頬を赤らめながらピッチ上を見守る。そして時折、傍らに座るギグスと意味ありげに会話を交わしたり、審判の判定に対して、思わせぶりに抗議をしてみせたりする。
最近のファン・ハールは、随分とプレミアの監督らしくなってきた。赤ら顔は昔からだし、実際にやっていることはアヤックスやバルセロナ、バイエルン時代と変わらないかもしれない。だがマンチェスター・ユナイテッドの監督として、ベンチに座る姿は日を追うごとに様になってきた。
これは成績に負う部分も大きい。シーズン開幕当初はプレミアで黒星が先行。リーグカップではよりによってMKドンズに敗れ、「希代の戦術家とは名ばかりで、モイーズ以下の監督ではないのか?」と嘲られたが、気がつけばプレミアで3位を占めるまでになった。
要因は大きく分けて二つある。一つ目は野戦病院のように負傷者が相次ぐ状態が沈静化したことだ。とりわけキャリックの復帰を境に、チームのパフォーマンスはかなり安定し始めている。二つ目は「ファン・ハール革命」と呼ばれた戦術改革――3バックが少しずつ形になり始めたことである。
ちなみに9月を迎えた時点では、3バックの導入は完全な失敗に終わったという見方が強かった。11月22日のアーセナル戦では3-4-1-2を採用しているが、これもまた一時的な措置を超えるものではないだろうと思われていた。ところがファン・ハールは12月に入ると再び3バックを採用。チームを上げ潮ムードに乗せるのに役立てている。
たしかに新機軸は、まだ完璧にはほど遠い。12月14日のリバプール戦は3バックで3-0で完勝を収めたとはいえ、勝利に最も貢献したのはファインセーブを連発したデ・ヘアだった。0-0で引き分けたトットナム戦のように、シーソーのように危なっかしい試合展開も散見される。
しかし3バックを復活させるにあたって、ファン・ハールはやりくりのうまさを披露している。アシュリー・ヤングどころか、19歳のパディ・マクネアや20歳のタイラー・ブラケットまで担ぎ出して、ディフェンスラインを組ませる。
ルーニーをボランチで起用し、しっかり機能させた手腕も見事だった。プレミアの長く激しいシーズンは折り返し地点に差し掛かったばかりだが、希代の戦術家という触れ込みが評判倒れでなかったことは、ひとまず証明できたと見ていいのではないか。