「あれだけボコボコにされると、逆に清々しいというか……」
3失点目を喫した慶応大がセンターサークルの中央にボールをセットする。山浦新(4年)は顔を真っ赤にし、手を叩いて周りを鼓舞していた。
12月14日、その年の大学サッカーを締めくくるインカレ(全日本大学サッカー選手権大会)。2回戦がShonan BMWスタジアム平塚で行われ、プレーオフで出場権を得た慶応大は、関西地区第1代表の阪南大と対戦した。
圧倒的な攻撃力で関西大学リーグを制した阪南大は、前評判通りの強さ。河田篤秀(4年)、多木理音(4年)の2トップを軸に、中盤から脇坂泰斗(1年)が果敢に攻め上がってくる。慶応大は前半3分に失点し、そのまま相手の勢いをまともに受けてしまう。以降、形勢不利をひっくり返せず、計22本のシュートを浴びた。
曇天の空に、終了のホイッスルが鳴り響く。0‐3。完膚なきまでに叩きのめされた。
タイムアップの瞬間、山浦は落ち着いていた。負けたなぁ、相手が強かったと、力の差を素直に受け入れていた。ピッチから退き、スタンドの前に立つ。見上げれば、苦楽をともにしてきた仲間たちの顔があった。試合に出られず、サポートに回った4年生もいる。感謝の気持ちを込めて頭を下げた途端、感情が込み上げてきた。
溢れだした涙が止まらない。山浦はユニフォームで顔を覆い、ベンチの脇に座り込んだ。東京ヴェルディユースの後輩、宮地元貴(慶応大2年)や端山豪(同3年)が肩に手をやって話しかけるが、顔を上げられなかった。4年間の大学サッカーが、これだけは譲れないと懸けてきた競技生活が、終わりを告げた。
「あれだけボコボコにされると、逆に清々しいというか……。早い時間に失点し、あそこでもう少しチームを落ち着かせられればと悔いはありますけど、相手との差は歴然としていました。自分たちの力が足りなかった。僕の能力も全然足りなかった。最後の最後にとことん思い知らされました」