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【佐山一郎×後藤勝 “サッカー狂”特別対談】フットボール・ライティングの地平線 第3回「記事になった原稿は、すべて本になることを目指さないとダメ」

text by 後藤勝 photo by editorial staff

本を出さない優秀なジャーナリスト

佐山 土下座感のあるお礼を述べたあとでなんですが(笑)、これは後藤さんにも伝えておきたいことで、やはり一度書いたもの、記事になった原稿は、すべて本になることを目指さないとダメだと思うんです。なぜかというと、「無駄撃ち」をしないことが眼先の仕事への集中力になるから。本になる“いつか”から逆算的に考えて、きちんと蓄積していく。自分が書いた本が書店に並んでいるとちょっとだけ気分がいいでしょう。

後藤 そうですね。とはいいつつ違う考え方もあって、『サッカー本大賞』の選考委員でもあるライター・編集者の速水健朗さんは「本を出さないけれども優秀なジャーナリストがたくさんいる」とおっしゃっていました。つまり、書籍にかける労力とその対価である印税を考えると、雑誌やWebメディアにページ単価でたくさん書いたほうが効率がいい、と。

佐山 でもそれではプロジェクトごとのゴールがないよね。単著の刊行がやはりゴールでありささやかながらも自己の歴史化なんじゃないかな。そして次にまた進んで行く。雑誌の担当者だってどんどん年をとっていったり、管理職になって去っていく。そうすると後任のより若い担当者が「このひと、なんとなく煙たいな」ということになったら、仕事がなくなるわけでね。考え抜いた自分らしい媒体論をそれぞれが持っていないと長く続けられません。

後藤 サッカーライターの場合はクラブごとの担当記者システムのおかげでワークシェアリングが成り立っている状態ですね。これもいつまで続くかわかりませんが。

佐山 その県にホームを置いているクラブの記事を担当しながら、タウン誌に書いていたりする、という話はよく聞きます。そういう密着した取材は、僕の場合はもう年齢と世代の問題もあってできないかな……。いま『闘技場の人』を読むと、30代の頃の取材対象への急接近ぶりが気持ち悪いくらいなんですよ。

 松尾雄治さんの取材(『闘技場の人』収録・「ラストゲーム」)では、ラグビー日本選手権の前日、彼の病室にいるんです。そんな「スポーツの書き手としての青春時代」を満喫していられたのは、『サッカー細見』にインタヴューを3本収録している岡ちゃん(岡田武史)くらいまでかな。

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