「何を意識するかで随分問題解決のスピードは変わってくる」
しかしながら難しいのはここからだった。VONDSの所属はJ3ができる来季は上から数えて5番目のリーグ。複数の選手とコンタクトはとったが、交渉は難航を極めた。当然ながら、選手からすると少しでも上のカテゴリーでプレーしたいし、良い条件でやりたい。
徹底して相手選手の立場になり、VONDSの魅力、できる限りの好条件、またもうひとつ心掛けたのは自分が感じるその選手の武器とともに、課題とそれをどう克服するか、それができれば、どんな変化があり、選手としての価値がどうやって高まっていくかという自分の分析と計画も話すようにした。
監督兼GMの立場をフル活用することを心掛けた。選手というのは「うまくなりたい」「高いレベルで続けたい」という純粋な想いが当然あるので、どうすればそれができるのかということを、交渉の場を持てた選手には具体的に伝えるようにした。
選手がぶつかる課題は大きく分けて3つで、技術的な問題、フィジカル的な問題、メンタル的な問題。このいずれかで、どこでどんな問題にぶつかっているかという見立てを一緒に考えることをした。
SBの選手を例で話すと、攻撃が得意な選手であったとしても、技術的なところで言えば、クロスの精度、自陣でのビルディングアップ、ファーストタッチの置く位置、1対1になった時のドリブルのバリエーション、CBからボールを受ける時のポジショニングなど。フィジカル的な問題で言えば、守備時のステップワーク、後方への浮いたボールの対応、1対1のアプローチの仕方、しっかり沈み込めないのは、怪我で足首が使えていない等。メンタル的な部分ではマッチアップする選手との心理的な駆け引きやミスをしたあとのプレー選択のクセなど。
自分も散々色々な問題にぶつかってきたので、どの切り口で問題をとらえ、何を意識するかで随分問題解決のスピードは変わってくる。
将来的に整備されたクラブでは最終的には選手の指導はどんどん個別化してくると自分は思っている。当然ながら一人一人の武器は違い、ぶつかる課題もまちまちである。それを色々な切り口で一緒に考えてくれる人がいることは選手にとっては有益なはず。VONDSでもやっていきたいことのひとつである。
もう一つ難しかったことは入団合意をした選手をどの職場に配属させるかということ。いくつかの職種があり、当然ながら条件も違う。選手がどの程度活躍してくれるかは、今までの選手経験である程度の想像はできたが、その選手の性格、人間性を見抜き、合う職場を決める作業は非常に難しかった。わからない以上相談するしかない。年輩のVONDS関係者の方々、職場の上司の方々と話し、また本人とも話し、面接を行い、話を進めていく形をとった。実際に大変だったのは、配属後であったが…。
選手だけでなく、スタッフにも入れ替え、また規模を膨らます時期でもあったので、何人かのスタッフを加えるために、面接とまで堅苦しものではないが、多くの人と会うこととなった。もちろん自分一人で決めるわけではないが、この「人事」というものは特に難しい作業のひとつだった。
12月、1月はチームの新体制を作る時期で、とにかく、やること次から次へと溢れ出てくるようであった。もちろん大変ではあったが、その分一つひとつに、一人ひとりに思い入れを強く持って行うことができたと思う。