当面は現役大学生Jリーガーとなる大木
大木暁(駒澤大4年)と会ったのは、このときからおよそ2週間ほど前。二子玉川駅近くの焼肉店である。席に座るなり、大木は言った。
「決まりました。おれとリョウ、ヴェルディに帰ります」
と、満面の笑みである。あ、そうなの。よかったね。そもそもこの場は、4年間の寮生活を送った大木の貧しい食生活に同情を禁じ得ず(92年組のなかで群を抜いて過酷だった)、最後に焼肉をごちそうすると約束したのがきっかけである。それが思わぬ祝いの席となった。
「うれしいですね。またヴェルディでサッカーができる。いやー、行き先が決まってほっとしました」
で、懸案だった卒業のほうは大丈夫なのだろうか。
「無理でした。だいぶ追い上げたんですが、10単位くらい残してしまいそうです」
はいはい、予想通り。ま、頑張ったほうだよ。この点、劣等生だった僕の評価はひどく甘いのかもしれない。留年分の学費はもったいないが、その程度の単位数ならどうにかなるだろう。当面は現役大学生Jリーガーである。
「親に報告したら、うれし泣きしていて、あらためてよかったなぁと。そのあと、いまのうちに自動車教習所に通う計画を話したんですが、そんなひまがあったら練習しろと母親から言われました……」
それは親御さんの言うことが正しい。君のライバルになるのは、ユースから昇格して即レギュラーに定着し、41試合2得点の安西幸輝だ。あれはかなりのタマだぞ。
「あいつはいいですね。久しぶりに見ましたよ、あんな能力の高い右サイドバック。大学でも見たことがないレベルの選手です。でも、見ててください。いつか、おれはあいつを倒します!」
あのさ、相手の実力を素直に認めるのは結構だが、それってユースの後輩に向かって言うセリフじゃないよ。「いつか」という時間設定もどうなんだ。大卒なんだから、そうのんびりしていられないからね。