欧州とは異なる選手とサポーターの関係性
槙野智章と森脇良太の例はどうだろう。両選手は浦和のスタメンに定着し、チーム力の向上に貢献したことでサポーターに愛されている。
しかしながら、広島でその後台頭した水本裕貴や塩谷司は、2012年から2014年の間に2度のJ1優勝と1度のゼロックススーパーカップを含む4つのタイトルを勝ち取っている。それに対し、槙野は未だタイトル獲得には至っておらず、森脇は広島在籍最終年に獲った初優勝のシャーレだけである。
その上、槙野と森脇はザッケローニ前監督時代の日本代表には招集されていたが、ハビエル・アギーレ新監督就任以降は水本と塩谷にプレーする機会が与えられている。
だが最大の相違点は、クラブと選手の捉え方である。欧州の大多数のサポーターは、プロの世界とは利益が目的という考えが染み付いている。選手たちは移籍を繰り返し、時には最大のライバルチームに赴き、そしてほとんどサポーターが彼らのことを知る機会を得ることなくクラブを去る。
日本の地域密着クラブのコンセプトはこうだ。サポーターが選手をより深く理解し、我が子のように抱き締め、フットボーラーとしてだけではなくひとりの人間として強い愛着を抱く。
欧州のサポーターはピッチの外で選手のことを少し知ることができれば幸運である一方、日本のサポーターは選手たちとより親密に触れ合うことで両者の間に非常に強い結びつきが生まれる。
それを裏付ける理由として、ホームゲームが開催されるスタジアムでは、選手一人一人のバナーやチャントなど、世界のどの場所にも起こりえないものが存在している。
【次ページ】浦和のアイデンティティーとは?