スカウティングがものを言う相手のあるスポーツ
サッカーは相手があるスポーツだ。いくら自分たちをよい状態にしたとしても、相手に対策を立てられれば、ストロングの部分を発揮できなくなる。成績が低迷しているチームを再建しようというとき、相手のことよりもまず自分たちのことを云々――という話になりがちだが、そうしたチームが勝点を重ねたいのならいっそう相手を研究する必要がある。
もっとも、監督やコーチングスタッフは誰に言われるまでもなく、そのシーズンに対戦する可能性のあるチームに対して研究と分析を重ねている。いわゆるスカウティングだ。
特に意識するまでもなく日頃から他クラブ、他チームの動向は気にしているものだし、対戦が近づけばより仔細な分析に入る。
次節の対戦相手を丸裸にするべく、監督は偵察に行ったスカウティング担当からの報告を受け、コネで情報収集をおこない(対戦相手と最近試合をしたチームの、仲のよい監督から教えてもらうこともある)、ビデオを解析し、あらゆる手段を使う。
そこに、自分たちの反省も加わる。前節に出た課題を検証して改善しつつ、次節の相手のどこを攻め、どう守るかの要点を挙げ、チームとして意識の統一を図るのだ。
もちろん相手も対策を練ってくるわけだから、自分たちが対策をしたから勝てるというものではない。そんな保証はない。それでも監督は情報を集めるし、動けるときは自ら脚を運んで、数節先に当たるチームの試合を観たりする。映像をはじめとするデータの解析にも時間がかかるから、誰よりも早くクラブハウスに入り、誰よりも遅くクラブハウスを出る、という事態になることも珍しくはない。つまり監督は選手をあれこれと動かす前に、よく考えている。
サッカーそのものについて競技の原理や歴史から考え、本質からどうあるべきか、今後どうしていくべきかの哲学を持ち、競技内容だけでなく、ホームタウンやスポンサーについても理解を深め、選手とも、直接プレーに関する内容以外に、クラブのことについて話したりもする。
そうした準備の時間がたっぷりとある。サッカーを空気とする濃密な時間のなかに監督は埋まっていて、一日に二時間、練習に於いてその知見を最大限に発揮する。