監督の仕事は就任前から始まる
サッカーの監督を評価するとき、試合中の選手交替やフォーメーションの変更など、勝負師としての采配がフォーカスされることが多い。遡っても、ファンの関心を呼ぶのは、先発メンバーやフォーメーションの選定までだろう。
もちろん勝敗に直結する以上、試合当日の働きぶりは重要だ。しかし監督の仕事を周期で捉えれば、その一日は一週間、数カ月間、一年間の成果を披露する一瞬でしかない。
監督の仕事は試合当日を迎える前に、そのほとんどが終わっているのだ。
競技の特性上、監督が修正できるタイミングはハーフタイムにかぎられている。あとはボールが外に出てプレーが途切れたわずかな隙に、ピッチサイドの選手に指示を託すか、交替選手を送り込み彼をメッセンジャーとするか。
次々に局面が切り換わり、基本的にプレーが止まらないサッカーの場合、個々の局面にプレーを選択、判断し、責任を持つのは選手である。
だから監督は選手が自らよい判断をして試合を優位に運ぶよう準備をする。ここに監督の手腕があらわれる。実際にプレーするのは選手なのだから。
そもそも監督の権限はクラブによっても異なる。
一般的には、監督はスーツケースを持った渡り鳥で、雇われの身分だ。
クラブの強化部長はめざす順位や戦い方、ブランディングなどを考慮して、方向性が似ている監督のなかから、バジェットに合致した人材を選び出す。
この時点で監督ができることは既に限られてきている。よい選手を獲ろうにもない袖はふれないし、クラブの格に見合わない選手は来てくれない。
そうしたもろもろの限界と、求められる結果、得られるリターンのバランスがとれていると判断した場合に、監督はそのクラブと契約する。
そこでクラブの現状に則した青写真が描かれる。チームのスタイル、すなわち基本コンセプト、フォーメーション、戦術、メンバーが決まるのだ。
そして目標も。1部残留も危ういチームを任されたのに目標が優勝などというミスマッチがあれば、監督はその時点で自分から辞めるだろう。