サッカー解説者をめぐる状況は新時代へ
テレビ解説やテレビインタビューは、当然文字の世界とは違う。視覚や聴覚により訴えることができるという点で、そういったノンバーバルな要素がきわめて大きな重要度を持つ。
時にそれらはロジック以上の意味を持ってくる。松木氏の解説を聞いていると、主に聴覚に作用するサッカー解説において、「楽しそうに話す」ということがどれだけ大切であるかを思い知る。
もちろん、松木氏の解説や文字の世界を批判しているのではない。求められるもののグラデーションが違うということである。
また、今回の試合後インタビューで個人的に注目をひいたのは、テレビ朝日が映像をインタビューに取り入れていたことだ。映像を使ったのは乾のみであったが、直後に自らのゴールシーンを振り返るというのは新鮮であった。
おそらく、同局『やべっちFC』の人気コーナー『解説するっち』から影響を受けた形であろう。今後も探っていくべき手段であるし、他局もどんどん取り入れてほしい。
今、W杯を経験したかつて選手たちが解説者へと転向し、活躍の機会をどんどん増やしている。中には宮本恒靖氏や戸田和幸氏のように知性や教養を感じさせるタイプも台頭しており、今後も“喋れる元選手”が活躍していくことが予想される。
インターネットやソーシャルメディアを手に入れたことで、視聴者の知識量や趣向は以前とは異質なものへと変容している。知識や経験だけで解説が務まる時代は終わったのだ。そういう意味で言えば、中山氏の今後に期待するものは大きい。
テレビ朝日は今、松木安太郎という名解説に加え、中山雅史という名インタビュアーを手にした。これを「鬼に金棒」と呼ばずに何と呼ぼうか。今大会も、テレビ朝日のサッカー中継から新たな名言が生まれそうな気配がある。
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