なぜフラッシュインタビューは難しいのか
テレビのフラッシュインタビューが難しい点は3つある。1対1であること、質問時間がきわめて短いこと、質問の様子がそのまま全国中継されてしまうことだ。
ミックスゾーンでの取材と異なり、テレビの試合後のインタビューは1対1で行われる。仮に質問が浮かばなかったり質問内容を間違えたりしても誰も助けてくれない。
また、1選手に割くことのできる時間は限られており、質問内容を凝縮させ間髪入れずに質問し続ける必要がある。そして、自らの質問内容や口調がそのままお茶の間へ届けられるという点で、絶対に失敗できない場である。
記者にとって試合後のインタビューは、記者としての質がそのまま評価されてしまう恐ろしい場でもあるのだ。
それほどまでに、フラッシュインタビューは難しい。私自身経験はないが、ペン記者をしていて思う。何かを聞き出したいインタビュアーと早くロッカールームへと引き上げたい選手との間には温度差があることも、そのハードルを高くしている。これまで多くの“悲劇”が起きてきたのには、こうした理由が考えられる。
しかし、中山氏はこれらの懸念を全て払拭して見せた。試合中は解説業をこなしつつ、直後のあの限られた時間で質問内容をギュッと凝縮させ、選手たちから話を引き出すことに成功した。では、それらを可能にしたものは一体何なのだろう。
それは、本当の意味でのコミュニケーション能力に他ならない。小手先の話術や相槌、ボキャブラリーではない。
人柄、臨機応変さ、ユーモア、相手へのリスペクト、愛嬌、選手との信頼関係、テンポ。それらは人間性ともパーソナリティとも言い換えられる。これらを身につけるのは大変だ。持って生まれたもの、そして日々生活する中で育まれたものが大きいだろう。
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