シメオネの言葉に宿る魔力とは?
18年ぶりとなるリーガ優勝を決めた直後、アトレティコ・マドリーがファンに優勝を報告する場であるネプチューン広場でシメオネは「もし自分たちを信じて努力すれば必ず報われるんだ」というメッセージを発した。こうして日本語訳してしまえば何となく当たり前に聞こえる言葉だが、シメオネ自身から放たれた言葉には力強さと同時に魔力のようなものが漂っていた。
98年W杯でベッカムを挑発して退場に追いやったようにディエゴ・シメオネにはその狡猾なプレーから「ヒール」な印象が付きまとい、監督としても度重なる抗議と長期の退席処分により「ダーティー」なイメージがある。しかし、明らかに彼は“持っている”監督であり、『シメオネ超効果』は雄弁にその事実を物語る。
「この本には、シメオネの監督としてリーダーとしての実践的なメソッドがぎっしり詰まっている。そう、彼が素晴らしいのはアドバイスが具体的で、精神論やお題目に終わっていないところだ」
これは訳者である『footballista』木村浩嗣編集長よる「訳者あとがき」にある一文だ。「的確」としか表現のしようがない説明文である。本書は、まえがきに記述されている通り、シメオネ自身による語り言葉、一人称で綴られている。
世界的に関心の高いサッカーというスポーツにおいて、欧州で活躍する監督の言葉やメソッドは度々「ビジネスシーン、人生で役立つ」という謳い文句の元で書籍化されている。ただ、残念ながら少なくない数の関連書籍からこじつけ感や内容の薄さを感じてしまう。
その意味で、この『シメオネ超効果』には見事なまでにいい意味での期待を裏切られた。「面白い」以外の言葉が見つからないくらいに。世界最高峰の欧州において現在進行形で勝利と成功を収める監督がメディアでは絶対に出てこないエピソードや哲学を詳細に明かしている。
監督として言葉やコミュニケーションの重要性を認識しながら、冒頭でいきなり「集団を導く際にこころがけているのは、少ししか話さないことだ」、「言葉遊びに時間を割くことには何の意味もない」と言い切っていることで読者はスタートから本書の魔力に引き込まれていくだろう。
私が本書を一言で言い表すとすれば「バイブル」。成功者のエピソードや言葉を安易に集めたハウツー本が流通する日本において、「問題を解決するための深く明確な言葉」が随所に散りばめられているシメオネの哲学書は、まさに人生に立ち向かう人全てが手にすべき“聖書”ではないだろうか。
【了】