子どもの自立を高めるきっかけとなったリーグ戦での経験
こうして口田小での新たな日々がスタートしたが、新たな学校のサッカー環境は三篠と全く違うものだった。口田小のあるエリアは「高陽地区」と呼ばれ、広島の中で特別にサッカーが盛んな地域である。
そして、ここでは「高陽リーグという素晴らしいシステムの存在を全国の人に知ってもらいたい」(森重)が言うほど、全国に先駆けてすべての運営・マネージメントを子どもたちが自主的に手がけるボトムアップ式のリーグ戦・「高陽リーグ」を1983年からスタートさせており、リーグ戦文化が完全に定着していたのだ。
「高陽地区には口田、口田東、落合、落合東、真亀、亀崎、深川(ふかわ)という7つの小学校があって、それぞれ車で10分程度と移動のしやすい距離。サッカー指導のできる教員もたくさんいたことから、31年前に子どもたちがたくさん試合を楽しめる『リーグ戦』をやろうという話が出て、毎週金曜日の17時からホーム&アウェーで試合をやることが決まったのです」(植村代表)
高陽リーグが行われる日、子どもたちはコート整備や審判、記録など試合の準備を全部自分たちで進めていく。全員が最低半分(20分)は出場するというルールはあったが、メンバー選びや交代、戦術なども彼らが考え実践する。1年間のリーグ終了時には得点王やアシスト王、優秀キャプテン、優秀レフリーの表彰もあり、モチベーションも上がるような工夫も凝らされていた。また、試合終了後、ホームチームの指導者が両チームにアドバイスをする以外、指導者は口を出さないという大人があえて携わらない環境をつくることで、子どもたち自身の自主性を高めていくことにもつながった。
「日本サッカー協会は近年、リーグ戦の重要性を強調していますけど、高陽地区では30年以上前からそういう取り組みが始まっていた。それはすごいことだと思います。
1~3年生はジュニアリーグ、4~6年生が高陽リーグを戦うことになっているので、3年生は1・2年生の面倒を見ることになる。そして4年になると、今度は上級生の下で自分の役割に徹しないといけない。そういう縦割りの集団を経験することは貴重だし、子どもたちの自主性や自己判断力を養ういいチャンスです。
コート整備をするにもピッチの規格を覚えないとダメですし、審判をやろうと思えばルールを学ばないといけない。普通の子どもはそんな機会が滅多にないので、高陽の子どもたちは恵まれていると思います」
そう植村代表は数多くの利点を説明する。
子どもの自立を促すと同時に問題解決力も磨く。高陽リーグが、今の森重の土台をつくっていった。