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Jリーグ 10年前

川崎F・小林悠が“エース”と呼ばれる日――。日本代表FWの才能を開花させた大久保・ジュニーニョの存在感

text by いしかわ ごう photo by Getty Images

追いかけたジュニーニョの背中

 翌年、小林は背番号11番を背負うことになったのだが、それに伴い、背番号10をつけているジュニーニョとはロッカールームが隣同士になっている。これが転機となったのだろう。ジュニーニョと日常的に接する機会が多くなったある日、小林は彼にこう告げられた。

「俺のことをよく見ておけ。練習中も、自分の近い場所にいてプレーを見ろ」

 その言葉をきっかけに、師弟関係とまではいかないが、小林はジュニーニョの振る舞いをつぶさに観察し始めるようになっている。この年、小林は12得点をあげてブレイクを果たしているが、ジュニーニョという生きた教材があったこととも無関係ではないだろう。

 あのとき、ジュニーニョの言葉の真意がどこにあったのかはわからないが、シーズンの終わりに退団する際には、小林はこんな言葉をかけてもらっている。

「チームが苦しいときにゴールを決めるストライカーになれ」

 この言葉は、小林の心に今も深く刻み込まれている。彼が「苦しいときに決められる選手になりたい。勝つ為のゴールが決めていきたい」と公言しているのは、ジュニーニョから託されたこの教えがあってのことである。

「嘉人さんが『俺がやるから付いてこい』というタイプなら、ジュニは『俺を見ておけ』っていうタイプですね。嘉人さんがお兄さんなら、ジュニはお父さんという感じです」

 小林は偉大な2人のストライカーについてそんな風に例えていたが、シンガポールではブラジル代表との対戦も控えている。「俺のことをよく見ておけ」と言い残したジュニーニョも、もしかしたらテレビで日本代表のユニフォームをまとった小林の姿を目にするかもしれない。

 そのことを小林に伝えると、「いま、言われて、『そうか』と思いました(笑)。『あいつ、出てるよ』って思ってくれるんですかね……そうなったら、嬉しいです」と表情を崩し、感慨深げだった。

 ジュニーニョの背中を見て育ち、大久保嘉人の背中を追いかけているストライカー・小林悠。“エース”ストライカーと呼ばれる日まで成長を続ける彼の、日の丸デビューが近づいている。

【了】

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