代表に選ばれる者、サッカーを辞める者
武藤の代表入り以降、慶応大がトレーニングを行う下田グラウンドには大勢の報道陣が押し寄せ、やむなく取材規制を敷いたそうだ。
「なんかすみません、たいして面白いことが言えなくて。注目が集まり、親が医者とか、事実とは異なるデマも広まっているんですよ。サッカーに対しては真摯だけど、バカまじめというタイプではなく、みんなでふざけるのも好き。
笑える話がないわけではないんですが……。ほんといい奴なんです。有名になっても驕るところがなく、親しみやすい人柄は変わらない。あの爽やかな笑顔は作りすぎだよな、と仲間内では言い合っていますけど(笑)」
そうして山浦は言葉を控えた。武藤にとって大事な時期だから、余計なことで心を煩わしてはいけないと気遣っている。これもひとつの応援の態度だなぁと僕は感じ入った。友だちってのはそれでいいし、またそうあるべきだとも思う。
言葉を秘すといえば、ほかにも思い当たることがあった。東京ヴェルディユース92年組のチームメイトには、とある事情でサッカーを続けられなくなった者がいる。そのことを聞いたのは、2年くらい前だ。僕はライターだから、記事の材料として引力を直感したのを否定しない。
そこで何人かに訊ねたところ、皆そろって事実を認めつつ、多くを語らなかった。こちらが訊いてもいない周辺の色恋模様を語る大木暁(駒澤大4年)でさえ、ぐっと黙り込んで言葉を控えた。
僕はどの選手もできるだけ等しく扱いたく、知らなければどうにもならないから聞かせてもらいたいが、そのくせ赤裸々には語らないでほしいというアンビバレンツな感情に揺れた。誰もが口をもごもごさせていて、ほっとしたね。
「ちょっと聞いてくださいよ。あいつ、可哀そうでしょ?」そんなふうに語る者がいたら幻滅である。結局、詳しい話は別のルートから耳に入った。くだんの彼にはこの連載が終わるまでに一度連絡を取ってみるつもりだが、まだ考えがまとまらない。