サッカー専用スタジアムはファンを引き付ける
『おもてなし』の心は、こんな形で表れることもある。
チェルシーの本拠地スタンフォードブリッジは、ピッチ上で繰り広げられる戦いの演出効果を高めるためなのか、グラウンド全体が芝居の舞台のように最前列のフロアよりも少しだけ高く作られている。
サッカー大国の一角を占めるオランダ・アヤックスの本拠地アムステルダム・アレナでは、一方のゴール裏の最前列にあるステージ状になった上には、車イスに座った観客がゴールラインの端から端までずらりと並ぶ。
スタジアムは、巨大なハードコンテンツである。だが、完成したからといって、それで終わりという発想は、欧州には基本的にはない。時代の変化とともに移りゆく観客のニーズに応えるべく、設備の近代化や増設などを繰り返しながら、サッカースタジアムそのものが成長を続けていくのである。
ドイツは、2006年W杯の開催国として決まった瞬間から、リーグが一丸となって、さまざまな策を推し進めていった。
その1つがスタジアムの新設である。それまではバイエルン・ミュンヘンが使用していた、1972年開場のミュンヘン・オリンピアシュタディオンをはじめ、老朽化という問題だけではなく、陸上トラックが併設されているスタジアムも多かった。そこでサッカー専用スタジアムの新設に総力を上げて取り組んでいったのである。
サッカー専用スタジアムでの試合観戦を、ひと言で表すならば、臨場感がまるで違う。
加えて、客層の抜本的改革も成功し、ファンはわくわくしながら安心してスタジアムに足を運べるようになった。その結果、1スタジアム当たりの平均収容率が91%ということや、1試合当たりの平均入場者数が42,000人以上という成果をもたらしたのである。
イングランドでは1989年、スタジアムの老朽化が直接の引き金となった、いわゆるヒルズボロの悲劇によって、96人の死者が出る大参事に見舞われた。
その直後、イングランド政府主導のもと立見席が撤廃されたものの、その惨劇が物語るように、ビッグ4だけを取り出しても、アーセナルを除いて、100年以上も前に完成した古いスタジアムばかりである。