安定を求められる指揮官
「4-3-3が基本システムであることは、今季も変わらないよ。ハメスはインテリオールとして、このチームで守備の責任も背負うことになるが、どう適応するかを今後見ていかなくてはね」
こうして、昨季のチーム構築のスローガンであった“ピアノ・ア・ピアノ(少しずつ)”をもう一度唱えなければならなくなったアンチェロッティだが、できる限り早い段階で調律を済まさなければならない。
マドリーは格下のチームに対して、盤石でないパフォーマンスでも個人技を頼りにして勝ち点を稼いでいくだろう。が、嘆かわしくも彼らにとってハードルの低い“障害物レース”となったリーガにおいては、バルセロナ&アトレティコとの直接対決で好成績を収めることが不可欠であり(3位で終えた昨季はマドリッドダービーで1分け1敗、クラシコで2敗)、CLも決勝トーナメント以降はディテールによって勝敗が決まることになる。
“カルレット”は昨季にディ・マリアのコンバートで手にしたように、常々強調してきた攻守における確固とした“エキリブリオ(安定性)”を再び獲得する必要に迫られる。これが12年ぶりに欧州最高峰の大会で王者となり、移籍市場でも覇権を握り続けるクラブが、新たな黄金期を築くことを目指した船出だ。
マドリーのオフィシャルショップ内ではロナウド、ベイル、ハメスらガラクティコの姿だけが掲げられ、その存在が忘れられているアンチェロッティ。クラブ首脳陣の望む選手をピッチに立たせ、そのパフォーマンスが悪ければ自身に批判が浴びせられるという不条理の荒波に揉まれる中、“パシフィカドール(仲裁者、平和主義者)”と称されるこの船長は夜空にどのような星座を見出すのだろうか。
「噛んでいるガムの銘柄? カルロス・カルバホサ(マドリー広報)からもらうもので、何も特別ではない。1試合に13~14個は口にするね。まあ、とんでもない数だよ(笑)」。少なくとも、アウディ社のシートに座りながら噛みしめるものの味が、昨季より薄くなることはなさそうである。
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