貢献者ディ・マリア、シャビ・アロンソの退団
アンチェロッティの昨季の振る舞いは、じつに見事だった。ジョゼ・モウリーニョというマドリディスモを分断させたハリケーンの通過後にマドリーに到着したイタリア人指揮官は、イケル・カシージャスとディエゴ・ロペスの正GK論争をそれぞれコパ・デル・レイ&チャンピオンズリーグ(CL)、リーガエスパニョーラで起用することで可能な限り鎮静化させ、ガレス・ベイルの加入によって居場所を失くしたアンヘル・ディ・マリアを4-3-3のインテリオール・イスキエルド(左ウィングハーフ)にはめることに成功。
特にサミ・ケディラの長期離脱をきっかけに導き出されたアルゼンチン代表MFの再利用法は、彼がCL準決勝バイエルン戦、決勝アトレティコ・マドリー戦、コパ・デル・レイ決勝バルセロナ戦で勝利を呼び込む活躍を披露したことで、アンチェロッティがマドリー指揮官として下した最も重要な英断となった。
しかしながら、クラブの念願であった“デシマ(10度目のCL優勝)”を達成しようとも、マドリー、特にフロレンティーノ・ペレスが会長を務めるこのクラブは、ガラクティコ獲得による財政面の成長を止めはしない。
過去にロナウド、メスト・エジルを獲得した事例があるW杯イヤーの夏であればなおさらであり、その政策の被害を受ける選手も当然現れる。昨季に2年の契約延長を結び、今季にクラブ公式の自伝を出版する予定であったシャビ・アロンソは、トニ・クロース加入の影響によって、バイエルン・ミュンヘンで新たな挑戦に臨むことを決断。
そしてアンヘルというスペイン語で天使の名を冠する選手は、“ベイビー・フェイス”ハメス・ロドリゲスのマドリー入団という夢物語の成就を見届け、“レッドデビルズ”マンチェスター・ユナイテッドのささやきに耳を傾けたのだった。
【次ページ】埋まらない穴。攻守のバランス崩壊