交渉の際にはイエス、ノーをはっきりと
木村は12月に入って、メールを介して岡野と初めてコンタクトを取った。年俸面はほぼフィックスされている。残されたのは、日本における生活環境やウルグアイとの往復航空券などどの付帯条件を詰める作業だった。
「その中で、外国人選手によく見られる成果ボーナス、いわゆる出来高はいっさい設定しませんでした。年俸がこれだけ高いのだからと、パブロと代理人のダニエル・ボロティニコフを納得させるのに1ヶ月くらいかかりましたけどね(笑)。
外国人と交渉するときに日本人は弱腰で対応して、相手の条件を飲んでしまうことが少なくありません。そうすると実際に来日した後に細かい部分を不必要に締めつけて、関係が悪くなって結局は後悔することになる。時間をかけてもいいので、最初からイエス、ノーをはっきりさせたほうがいいというのが、僕の経験則の中にあるんです」
迎えた12月25日。木村はパブロと再び交渉の場を持つ。ダニエルも初めてテーブルにつくことが決まっていた。ここまでの電話やメールによるやり取りの積み重ねから木村は仮契約を交わせると確信し、岡野のサインが施された仮契約書も日本から取り寄せていた。
ブラジルに滞在すること約3ヶ月。最高のクリスマスプレゼントが待っているという期待感はしかし、もろくも崩れ去った。2人は思いもよらない提案をしてきた。
「僕のことは信頼しているけれども、これだけの大きなビジネスだから一度日本へ行って施設や環境を確認して、社長と話もしたい。それで問題がなければ話を進めたい」
岡野にその旨をメールで伝えた木村は、国内がクリスマスムード一色に染まる中で2人の航空券を手配する作業に追われた。自身も年末年始を家族と過ごすために、帰国することを決めた。カロリー過多なホテルでの食事にストレスが追い打ちをかけたからか、日本を発ったときに比べて木村の体重は実に10キロも増えていた。