会長から日本サッカーへの賛辞
――最後に、日本のサッカーファンに一言メッセージをお願いします。
「何よりもまず、祝福の言葉を送りたい。日本は今まで、この美しいスポーツの発展のために努力を惜しまず、誠実に強化に努めて来た。その成果は現在の代表チームや国内のリーグ戦、選手の質に現れている。
短期間にこれだけのことをやってのけた功績は、称えられて然るべきだ。ファンの皆さんは、今後もサッカー人気を支え続け、人々の生活に喜びと勇気を与えられる環境を維持してもらいたい。そして、7月1日にコパ・アメリカが開幕するとき、日本代表チームも参加していることを強く祈っている」
会長の机の上には、自身の人生訓である「TODO PASA」(全ての物事は過ぎ去る)が刻まれた置物が置かれている。幸福や幸運は永遠に続かないが、苦難や悪運もやがては過ぎ去るという、ラテン国家のアルゼンチン人らしい楽天主義の考えだ。グロンドーナ会長は、この人生訓を心に刻み込み、30年以上もの間AFAのトップとして君臨し、アルゼンチンサッカーの発展に文字通り全てを注ぎ込んで来た。
アルゼンチン国内では、一部の関係者から、グロンドーナによる長年の「AFA独裁政権」に反発の声も上がっている。だが、協会幹部の大ベテランの口から発せられる言葉の1つひとつには経験がもたらす説得力があり、目前の利益しか目に入らないアルゼンチンのクラブ役員の中に、現時点でグロンドーナに代わる人物がいるとは思えない。
オフィスを去る前に、今年限りで勇退するという噂の真偽のほどを聞いてみると、グロンドーナ会長はにっこり笑ってこう言った。
「今の私の頭の中には、とにかくコパ・アメリカを成功させることしかない。その後のことはコパが終わってから考えるつもりだ」
グロンドーナはオフィスのドアを開け、クラブ役員たちが理事会のために集結する会議室へとゆっくり向かって行った。
(取材:2011年5月)
【了】