グロンドーナ氏の死去
毎週火曜は、アルゼンチンサッカー協会、通称AFA(アファ)において理事会が行われる日である。大理石のファサードが重厚な雰囲気を醸し出すAFA本部には、理事会の役員を務める各クラブの代表者たちが次々と到着する。フリオ・グロンドーナ会長へのインタビューが行われたのは、その理事会が始まる1時間前だった。
会議室に向かう前に、役員たちは先を争うようにグロンドーナ会長のオフィスに入って行く。一人出ると、待っていた役員たちが次々と入れ替わって入る。サッカー界の役員として55年、AFA会長として32年ものキャリアを持つ重鎮は、南米のみならずFIFAでも大きな影響力を持っている。AFAの管轄下にある各クラブの役員たちにとっては、まさに「ゴッドファーザー」的存在なのだ。
それほどまでに偉大なグロンドーナ会長だが、果たして私が取材のために廊下で待っていることを知っているのだろうか。秘書がとっくに伝えたはずだが、出入りする役員たちの数はますます増える一方だ。このままでは理事会開始の時間になってしまう。
その時オフィスに入っていたのが普段顔見知りの役員であったのをいいことに、思い切ってドアをノックしようとした瞬間、グロンドーナ会長が現れた。
「待たせて済まなかった。どうぞ中に入ってくれたまえ」
役員たちが我先にと会長との個人面談の機会を求める中、会長から直々に「招待」された私は、やや優越感に浸りながらオフィスに入り、年季ものの机の前に置かれた椅子に腰をかけた。