「これがプロの公式戦なんだな」。プロデビューを果たした菜入
7月26日、J2第23節、松本山雅FC vs 東京ヴェルディの試合は1-1のドローに終わった。75分、東京Vが杉本竜士のゴールで先制したが、81分、松本はセットプレーから犬飼智也のヘッドで同点に追いつく。決定機の数では20位の東京Vが2位の松本を上回り、あと一歩まで追い詰めたゲームだった。
この日がプロデビュー戦となったゴールキーパーのキローラン菜入(ナイル・東京ヴェルディ)は、終了と同時にピッチに尻をつき、しばらく動けなかった。
「疲れました。これがプロの公式戦なんだなって」
過去に味わったことのない疲労感だった。後半、ゴールキックのとき、太ももの裏、ふくらはぎの筋肉がわずかに痙攣した。ピンと糸を張った状態が続き、無意識に力が入っていたのだろう。
昨年から東京Vのゴールマウスに君臨する佐藤優也より、「菜入、頼むぞ」と連絡があったのは5日前の未明、前節のジュビロ磐田戦の直後だった。
その試合で佐藤は右手の甲を骨折し、ベテランの柴崎貴広も負傷により戦線離脱中。となれば、今季リーグ戦22試合で15試合バックアップを務めた菜入の出番だ。時刻は深夜2時半、気持ちが高ぶり、空が白み始める頃まで寝つけなかった。
「勝ちたかったですね……。前半、サビアのヘディングシュートを止めて、いいリズムでゲームに入れた。今日はシンプルにやろうと心がけました。次からは持ち味のビルドアップなど、攻撃の起点となれるプレーを増やしていきたい」
悔いは、ある。失点の場面、相手がニアサイドを狙ってくることはわかっていた。わかっていたなら周囲に指示し、もっと人を寄せておくべきだった。それによって、自分の立ち位置も変わったはずだった。
もっとも、対処をしたからといって、確実に防げたとはいえない。人を寄せていたことで飛び出す動きが制限されるケースもある。高度なレベルにおける成否の分水嶺は、ほぼ解のない領域である。実戦を重ね、経験を積むということは、その領域を狭めていくことだ。