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ブラジルW杯から読み解く戦術の潮流。オランダ対メキシコ戦で見えたハンドボール化する未来型サッカー

text by 西部謙司 photo by Getty Images

ハンドボールに似つかないビエルサ式のチリ代表

 ビエルサがアスレティック・ビルバオを率いた最初のシーズン、サン・マメスにバルセロナを迎えて壮絶な打ち合いの末に引き分けた試合があった。バルサのペップ・グアルディオラ監督も「これこそサッカーだ」と言った好ゲーム。あのときのビルバオはバルサに勝ちきれなかったが、今回はチリがスペインを粉砕したわけだ。

 無尽蔵のプレスだけでなく、チリはテクニックに優れ、ボールを失わない個人技を持っている。メッシやロナウドのような突破力はないが、アレクシス・サンチェスを筆頭に、体を入れてキープする、2人ぐらい来ても失わない技術と強さがあった。

 後方に3バックとMFマルセロ・ディアスの4枚を残して、どんどん前に出て攻撃の連続性を落とさない勇敢さは、4年前の前回大会でも称賛された特徴だ。

 サッカーには主に4局面あると書いたが、サッカーがハンドボールと大きく違うのは、4局面のどこにも属さない状況が多発する点である。どちらのボールでもない、どちらの攻撃でも守備でもない、ルーズボールがある。

 オランダ対メキシコの試合では、ルーズボールの機会が極端に少なかった。それもハンドボール的だった理由の1つだろう。対照的に、ハイテンポ、ハイインテンシティのチリのゲームはルーズボールが多発する。セカンドボールのとりあい、こぼれ球の奪い合い、そこでの勝負(デュエル)の回数が多い。

 豊富な運動量、対人の強さ巧さによって、チリはデュエルを制して試合のペースを握っていく。背は低くてもガッチリした体格の選手ばかりで、空中戦はともかく地上戦には強かった。デュエルの強さはウルグアイに似ているかもしれない。

 ぎりぎりまでテンポを上げ、心拍数を上げて、自分たちの土俵に引きずり込む。その領域においては、ブラジル、スペイン、オランダとも互角以上の勝負ができた。チリはハンドボール化とは全く違うアプローチで鮮烈な印象を残した。

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