タイで鍛えられた精神力でJ1に挑む
精神的に不安定な状況は、無意識にプレーにも悪影響を及ぼした。1シーズン目、平野はリーグ戦20試合に出場して3得点。だが、その3得点は全てリーグ終盤に挙げたもので、序盤から中盤にかけては攻撃の選手としては不思議なほどゴールに縁のない状況が続いていた。
「シュートを打つのが怖くて、無意識にそのポジションに行かないようにしていた部分があったんじゃないかと思うんです。ブリーラムというチームでやるには、自分は精神的に弱かった。人生の中で一番長く感じる一年でしたし、本当に成長できた一年でした」
ピッチでのプレーや結果からは、平野の深い苦悩は汲み取りづらい。なぜなら平野は、精神的なプレッシャーに加えて監督交代が繰り返されるという難しい状況にも関わらず、結果的にはコンスタントに使われ続けていたからだ。
「監督が何人も変わったなかでも出続けられたのは自信になりましたね。自分はすごいシュートもパスもないですが、監督の戦術を守るとか、文句を言わずに走りきるとか、そういう日本人ならではの部分。当たり前のことを当たり前にやることの大事さに、ブリーラムで気づくことができました」
リーグ戦32試合7得点、カップ戦13試合3得点、ACL13試合1得点。平野がタイに残した全成績だ。トップ、ウイング、5バックの左サイドなどさまざまなポジションで見せた献身的なプレーが評価され、今季ACLで同グループとなったセレッソから声がかかった。
「正直、Jリーグが全てとは思っていなかったですし、ブリーラムのチーム状況も良くなってきたところだったので悩みました。ただ、行くからにはタイの選手も日本でできることを証明したい。ダメだったら、やっぱりタイはこんなもんか、となってしまいますから」
タイがキャリアアップの場ともなりうることを証明した平野。東南アジアの田舎町で鍛えられた精神力がJ1の舞台で躍動すれば、近年スポットライトが当たり始めたタイ・プレミアリーグにまた新たな価値が生まれることになるだろう。
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