タイクラブ特有の体質に苦しんだ日々
クラブが本拠を置くブリーラム県はバンコクから北東へ約400キロ、イサーン地方と呼ばれるタイ東北部にある。何もない田舎町だけにその環境への適応にも苦しんだというが、何よりも苦しまされたのはこのクラブ特有ともいえる体質だった。
2010年にアユタヤ県にあったクラブをブリーラム県出身の元政治家・ネーウィン氏が買収、ホームを地元・ブリーラムに移したところから現在に連なっている同クラブ。“ネーウィンのクラブ”は豊富な資金力で東南アジア最高レベルのサッカー専用スタジアムを建設すると、一気にチーム強化を押し進めた。
試合時にもベンチ入りするなど、もともとオーナーが前面に出ることが珍しくないタイのサッカー界。契約期間中であっても事実上、クラブが一方的に契約を解除することも可能な悪しき風習も存在するため、簡単に言えば「オーナーに嫌われれば終わり」の現実が待っていた。
「最初、外国人が7人いたんですが、そのうち5人は開幕前にクビ。何事もなかったように新たな外国人が加わりました。言葉もわからないなかで、自分もいつ放り出されるんだろうと、むちゃくちゃ恐怖を感じました。日本では、一年は保証されていますからね」
最初のシーズン、その「恐怖」は最後まで平野を苦しめた。ストレスでタイ語を聞くのも嫌になり、睡眠薬が欠かせないほどの時期もあったという。
「サラリーマンなら明日は自分の机がないかもしれない、という状況が毎日続いていたんで。『プロだから仕方がない』と言われるかもしれないですけど、本当にそれ以上のレベルでしたね」
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