走っている姿勢そのままのドリブル
また、相手が完璧にコースを切ったつもりで寄せても、股を抜いたりボールをちょっと浮かせたりしながら局面で上回ってくることも多い。人間の身体は壁のような面ではないため、足を伸ばすと、そのすぐ横にはすき間がたくさん空いている。
足で防ぐ面積というのは案外少ないもので、好調時のメッシはそういうすき間が見えており、どんどんボールを通してくる。それも、メッシがメッシたる所以だ。
複数人で相手がアプローチしてくる場面では、守備をする2人の間、すなわち「門」を狙って2人を同時に置き去りにするルートを狙うこともしばしばだ。
もちろん、レベルが高い試合になれば、ここを突破することは簡単ではないが、たとえば相手が足を伸ばして門を閉ざしたつもりになっているところへ、ボールを浮かして通すなど、狭き門を鋭く狙ってくる。そしてボールを浮かす際にも、メッシは体の重心ごと前進していくため、浮かせた後のセカンドタッチも非常に早い。
かわすための難しいコントロールをしているにもかかわらず、メッシのドリブルは走っている姿勢そのままだ。まさにこれは、キャプテン翼の世界。大空翼が、早田誠のカミソリタックルをかわす際は、ボールを足に乗せてジャンプしながらそのまま前進している。メッシのジャンプも、それと同じようなイメージだ。
もちろん、メッシにも不調のときはある。たとえば縦へ切り返したときに、タッチを細かく刻み切れず、ボールが足から離れてしまったわずかな隙に、2人目の相手に仕留められるようなケースがそれにあたる。
それは本当にわずかな隙ではあるが、不調時のメッシは、アウトサイドで左側へ進む基本ルートを切られると、そこからさらにボールを浮かす、股を抜く、門を抜くといったプレーの柔軟性が発揮されない傾向がある。この点はメッシの好不調を示す、バロメーターになるだろう。