指揮官は遠藤に懸ける
一つは当然ながら長谷部であるが、これは彼の負傷が万全に癒えていたとしても、不安の大きい選択だ。豊富な経験はプレッシャーのかかるW杯初戦において頼もしいが、試合勘を失っていることは間違いないし、そのパフォーマンスは”やってみるまで分からない”という部分が小さくない。起用するとしたら、かなりの博打となる。
別の一手として青山敏弘という選択もある。守備の激しさと鋭い縦パスという特長を備えたこのボランチの能力に指揮官が一目を置いているのは間違いないが(そうでなければ、細貝萌を落としてまで選ばないだろう)、最もプレッシャーのかかるW杯初戦の先発に、国際Aマッチ出場歴一ケタの選手を起用するのは、これまた大きな博打である。
よってこの初戦、指揮官は遠藤に頼るのではないか。確かに今季の遠藤は優れたパフォーマンスを見せているとは言い難い。守備の実効性という意味で4人のボランチ候補の中で最も弱みを持つ選手でもある。ただそれでも、140試合を超える国際試合を戦い抜いてきた百戦錬磨の舵取りがピッチに立つ意味は小さくない。「スーパーサブ遠藤」はメリットのある策だが、それも長谷部のような経験ある選手が万全で先発してこそのものである。
スーパーサブ青山
では、青山には出番がないのか。
これが実のところ「ある」のではないか。ゆっくりとしたボール回しを好む遠藤を途中から入れることでリズムを変えて相手を幻惑するのが「スーパーサブ遠藤」が持つメリットならば、逆の一手も有効だろう。すなわち、縦に速く鋭いパスを、リスクを冒してでも入れていくプレーを特長とする青山を、途中から入れることだ。
本番直前の親善試合、ザンビアとの一戦で遠藤に代わった青山が見せた縦一本のロングパスは決して偶然の産物ではない。それまで出て来なかったタイプのパスが、突然出てくるようになる効用は、あの一戦でも見え隠れした。あそこまでハマることはまれだろうが、守備の強度に不安のある遠藤の出場時間を限定するという意味でも、「遠藤→青山」のスイッチは有効な一手だ。
かつてのように、遠藤の先発が彼のフルタイム出場を前提としたものにはならないだろう。G大阪と広島という、Jリーグを代表するパスサッカーの2チームが育て上げた新旧二人のボランチ。どちらが先発するにせよ、そのスイッチングが生み出す攻守の効用は、初戦のキーポイントとなるかもしれない。
【了】
関連リンク
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