かつては代表チームが原因で和平が壊れかけたことも
うたがった見方をすれば、コロ・トゥーレの言葉には、やはりコートジボワール代表の中にも少なくない人間関係のひび割れが存在することをうかがわせる。
しかし、仮にそのような争いが表面化すれば、「やっぱり違う民族が同じチームで団結するのは無理があったんだよ」というイメージを与えかねない。代表チームの分裂は、国の分裂につながり、再び悪夢のような内戦時代に戻ってしまう恐れがあるのだ。
実際、2009年にはブルキナファソからの移民であったアルナ・ディンダンが、大統領の命により代表チームを外され、この一件をきっかけに、せっかく和平に進もうとした北部と南部の間に再び緊張が走る一幕があった。スポーツに政治が力を及ぼすと、ろくなことにならない。
国をまとめる力がサッカーにあったのなら、同じように、サッカーには国を壊す力もあるということ。コロ・トゥーレの言葉からは、その責任の重みが痛いほどに感じられる。
ブラジルで戦う彼らの姿を、コートジボワールの人々はどのような思いで見つめているだろうか。アフリカの中では比較的裕福とされるコートジボワールだが、都市部を除くと、まだまだ無電化地域も少なくない。
そういう意味では今大会、SONYが有志スタッフを派遣し、現地のJICAコートジボワール事務所とパブリックビューイングを行うことには大きな意義がある(関連記事:コートジボワールを一つに。サッカーで希望を与えるためのW杯パブリックビューイング)。
コートジボワールの次世代を担う子どもたちは、コロ・トゥーレやドログバの熱い気持ち、そして、それを伝えようとする人の想いを、どのように感じ取ってくれるだろうか。
レシフェでの初戦は、わずか90分間で終わる。しかし、その90分には、ブラジル、日本、コートジボワールに散らばった人々のさまざまな思いが詰まっている。そのことを忘れず、僕は祝祭の会場へ向かいたいと思う。
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