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【WEB版連載最終回】サッカー近未来小説『エンダーズ・デッドリードライヴ』<第一一話>突如現れた補強ポイントにはまるセンターバックの逸材。アマチュアクラブ所属のベテランプレーヤーは銀星倶楽部の救世主となるのか…

【第一一話】戦争の新しい種類Ⅱ 
A New Kind of War Part Ⅱ

 伊勢市駅の前で逢うなり、山鹿はぼくに歩み寄り、握手を求めてきた。
「久しぶりだな。元気にしていたか」
「ええ、まあ……」
 本音を言えば、奏を神栖に残したまま、木瀬とヘヴィな交渉をしたあとで、気持ちはちょっとぐちゃぐちゃで、落ちている。と、思う。
 さすがにそれは、つくり笑顔を通して相手に伝わるだろう。
「どうした」
 厚みのある右手を離した山鹿は、左の手でぼくの肩を抱えるように掴む。事情を説明するべきか。逡巡したけれど、山鹿が言いふらすはずがない、そもそも信用できない相手ならいま自分はここに来ていない。彼になら話してもいいだろうと、ぼくは思った。
「じつは……」
奏が病気になったことを打ち明けると、山鹿は少しだけ驚いたような表情を見せ、「お気の毒に」と言ったあと、ぼくにこう提案した。
「伊勢神宮に行ってみるか。内宮(ないくう)に祀ってある天照大御神(あまてらすおおみかみ)は須佐之男命(すさのおのみこと)のお姉さんだからな、何かいいことがあるかもしれない」
 でもその前に、外宮(げくう)へ行こう、と山鹿。
「ここから近いんですか」
「すぐそこだよ。歩いて一〇分くらいかな」道すがら、祀られている豊受姫(とようけびめ)の由来を、山鹿は教えてくれる。高校もきちんと出ないで南米に行ってしまった自分にとってはよい勉強だ。「豊受大御神──トヨウケビメは、女性神のイザナミ、アマテラスは男性神のイザナギから生じた神様だ。トヨウケビメは丹波に祀られていたんだが、アマテラスが食事の際、話し相手がいなくて寂しいというものだから、こちらに遷されたんだよ」
 奏にはそんな友だちや親戚はいない。同じ職場になったことだし、里昴がなかよくしてくれるといいのだけれど。
「それで内宮の手前にある外宮に」
「そうだ。いかにも女のひとっぽい話だろう」
 いまごろ、奏はどうしているのだろう。寂しがっているだろうか。
 外宮での参拝を済ませると、道端で待つように言われた。しばらくしてあらわれたのは、山鹿が運転するワゴン車だった。
 なるほど、外宮の駐車場に停めておいたから、ここまでは歩いてきたのか。そう納得しながら、山鹿の車をしげしげと眺めると、ドアに「山鹿陶芸」という文字が刷られていることに気がついた。
「山鹿さん、お店始めたんですか」
「ん。あ、これか? おれな、いま陶器つくってるんだよ」
「山鹿さんが?」
「うん」
 器用そうではない分厚い手で――いや、だからいいのか? ろくろを廻している姿がさっぱり想像できない。
 東京に住んでいた頃、陶芸を趣味にするようになった。かなり本気で取り組みめきめきと腕前を上げたある日、三重県伊勢市の大和蹴球団からオファーの連絡があった。プロとしての給料は出せないが、就職斡旋も含め、自治体や神宮の総力を挙げて厚遇すると言ってきた。
 最初は迷っていたが、伊勢とその周囲が陶器の産地であることを知り、急速に心が傾いたのだという。
「それで移籍を決めたんですか」
「ああ。いや、全然知らなかったんだよ。東京でも師匠からは純粋に技術のことしか聞いていなかったし、まさか伊勢にそういう一面があるとは、さ。まあだから、これも何かの縁かもしれないと思ってね。生活の心配がないようにしてくれそうな配慮も感じたし。いいだろうと」
 大和蹴球団に所属する前、山鹿は東京の企業チーム、残光金属サッカー部にいた。ぼくが中学のときに通っていたジュニアユースはその下部組織で、必然的に交流が生まれた。
 高校卒業後に二年間、プロでプレーしていたが、この世界に嫌気が差して働きながらプレーすることを選んだ。その後、残光金属で正社員に。手堅く企業人になりきらないところは、らしいと言えばらしい。
 身長は179・6センチでわずかに180センチに充たない程度。しかし尋常ではないジャンプ力があり、190センチ級とも空中戦で渡り合える。試合の終盤に彼が上がるパワープレーは「山鹿大作戦」と呼ばれたものだ。
 残光金属時代、人員不足でフォワードに転向したシーズンは、利き足は頭と陰口を叩かれるほどのヘディングの強さで4部オーバーリーガの得点王に輝いた。非常に逞しいメンタルの持ち主だった。ことしで三四歳になる。

続きは、サッカー近未来小説『エンダーズ・デッドリードライヴ』特設サイトで。

小説『エンダーズ・デッドリードライヴ』WEB版連載は今回で最終話です。
続きは、現在製作中となる書籍版にてお楽しみください。

完全版となる書籍版『エンダーズ・デッドリードライヴ』は7月18日発売予定となります。

現在、鋭意製作中です、ご期待ください。

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エンダーズ・デッドリードライヴ

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