地下鉄には「W杯は開催しない」のシールが
W杯の開幕が近づくと町中の至る所にブラジル国旗や黄色と緑で彩られた飾り付けが目に付くはずのサンパウロ。南米最大の都市は、開幕を間近に控えても異例の「盛り下がり」を見せている。
原因は全国各地で頻発しているデモによる厭世ムードである。
サンパウロ市内を走るメトロ(地下鉄)の駅内にあるW杯関連の標識には昨今のブラジルで最も耳にする言葉を記したシールが、これみよがしに貼付けられていた。
「Nao Vai Ter Copa(W杯は開催しない)」。昨年のコンフェデレーションズカップ中に起きた全国的なデモはその後も継続的に、W杯に対する反対運動として行われてきたが、デモ隊の多くが「W杯は開催しない」という標語を声高に叫び続けてきた。
日本にはブラジル国民の怒りの原因が伝わりにくいだろうが、昨年のコンフェデ杯以降、声を上げ続けているのはブラジル国民の多くを占める貧困層ではない。
ブラジル政府は当初、スタジアム建設やインフラ整備などに公的資金を投入しないことを約束していたにも関わらず、結局のところ大半を公的資金でまかなったばかりか、汚職までもがはびこっている。
「スタジアムでなくて教育や医療を」。そんな庶民の不満はついにセレソンにまで向けられた。先月26日、ブラジル代表の合宿地であるグランジャ・コマリーで、選手たちが乗ったバスを待ち受けたのは教師たちによる抗議活動だった。
「ブラジルよ、目覚めよ。教師はネイマールより価値がある」
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