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名波浩が回想する98年W杯。初出場への重圧と歓喜の狭間。「下手くそで弱かったけど色は好きでした」

text by 原田大輔 photo by Kenzaburo Matsuoka , Getty Images

初戦のキックオフ直前に中田英寿が掛けてきた言葉

――実際にW杯のピッチに立った時、どんな感覚でしたか?

「ユーゴスラビアやクロアチアともキリンカップで戦っていたし、強い相手とかでも名前負けしたり、ふわふわと浮き足立ったりというのはないだろうとは思ってた。初戦のアルゼンチンにしても、やっぱり強いだろうなとは思っていたけど、それは決してネガティブな意味ではなく、相手をリスペクトした上での感覚で。

 個人的には試合にはリラックスして臨めたし、普段どおりのプレーもできていた。だから、そんなに後悔は残っていないんですよね。強いて言えば、第3戦のジャマイカ戦で、いわゆるおいしいボールが転がってきたのに、ふかしちゃったことが、悔やまれる。ただ、その時の自分ができる最高のプレーはできた。それで負けたんだから、日本は弱い。オレは下手くそなんだって認識でしたよね。終わってみたらですけどね(笑)」

――3試合の中で特に覚えていることはありますか?

名波浩が回想する98年W杯。初出場への重圧と歓喜の狭間。「下手くそで弱かったけど色は好きでした」
中田英寿【写真:Getty Images】

「そうそう。初戦のアルゼンチン戦でピッチに立ち、円陣を組んで、『行くぞ』って広がった時に、ヒデが『ナナ』って言って寄ってきたんですよね。それで、オレも『どうした?』って近づいていったら、『この中で普段どおりプレーできるヤツって何人いるかな?』って、ぼそっと言う。それを聞いた瞬間に、試合がキックオフされたんですけど、同時にこいつ観点が違うな。すごいこと言うなって思ったのを覚えてますね」

――第1戦のアルゼンチン戦で感じた世界との差とは?

「この間、柔道家の野村忠宏さんが柔道着の襟を掴んで組んだ瞬間に『こいつ強いな』というのが分かるって言ってたんですけど、まさにそれと同じ感覚でしたね。入場してピッチに並んだ時に『強いな』というのが感覚的に思ったんですよね」

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