闘莉王の発破。監督の“バクチ”でチームは大改造
「はっきり言って日本は弱い。下手くそには下手くそなりの戦い方がある」
席上でDF田中マルクス闘莉王(名古屋グランパス)が訴えかけるように言い放つと、お互いが胸の中に秘めていた思いを忌憚なくぶつけあった。みるみるうちにムードが変わっていった様を、FW大久保嘉人(当時ヴィッセル神戸)はいまも鮮明に覚えている。
「本番直前にみんなが開き直った。オレたちは弱いんだってね。それがあったから、泥臭い戦いぶりといったものが出てきたんですよ」
その一方で、岡田監督は「大バクチ」を打つタイミングをうかがっていた。イングランド戦でゲームキャプテンをDF中澤佑二(横浜F・マリノス)からMF長谷部誠(当時ヴォルフスブルク)へ、GKを楢崎正剛(名古屋グランパス)から川島永嗣(当時川崎フロンターレ)に変更。俊輔の代わりに阿部勇樹(浦和レッズ)をアンカーとして起用し、中盤の守備を安定させた。
そして、南アフリカのキャンプ地ジョージに入ってから組まれた、ジンバブエ代表との練習試合で本田圭佑(当時CSKAモスクワ)をワントップで起用。本番でも採用された「4‐1‐4‐1システム」を半ばぶっつけ本番で試すとともに、アジア予選を通じて長く主力を務めてきた俊輔、DF内田篤人(当時鹿島アントラーズ)、FW岡崎慎司(当時清水エスパルス)を正式にサブへ降格させた。
その後の軌跡は、あらためて言うまでもないだろう。カメルーン代表とのグループリーグ初戦に1対0で勝利し、オランダ代表には0対1で屈したものの、デンマーク代表との最終戦では3対1と快勝。オランダに次ぐ2位で、2大会ぶりの2度目の決勝トーナメント進出を決めた。青息吐息だったチームを蘇生させたのは、不慣れなポジションで2ゴール1アシストをマークした本田だった。
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