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CL惨敗も、期待を抱かせるに足るペップ・バイエルンの潜在能力

text by 鈴木達朗 photo by Ryota Harada

前衛的なサッカーがもたらす期待感

 とはいえ、ハインケスの下でトリプルを達成したシーズンの特徴は、どんなにポゼッションの比率が上がったとしても、ゲームを決定づける要素はゲーゲンプレッシング、カウンター、といったトランジション(切り替え)の速さがキーポイントになる戦い方だった。

 著者は、知性派監督として知られるラルフ・ラングニックの言葉を用いて、トリプルを達成したバイエルン・ミュンヘンの特徴をこう説明している。

「彼らはこれまでにないほど素早く、トップの選手までボールを運んでいる。頻繁に使われる斜めのパスと鋭いスルーパスを混ぜ合わせ、横パスやバックパスはほとんど使わなかった。彼らは攻撃でも守備でも、プレーのスタイルを変えたのだ」

 一方で、グアルディオラ以降のバイエルンの特徴は四方八方にボールを動かすスタイルで、それはときには停滞しているようにも見えてしまうときすらあった。シーズン序盤、スポーツディレクターのマティアス・ザマーがたびたび口を出したのも、このスタイルの変化に理由がある。これまでの直線的なスタイルに対して、流動的にじっくりとボールを動かすスタイルが緩慢に見えてしまったのだ。

 また、ポジションを固定し、あまり実験的にチームをいじらなかったハインケスに対し、サイドバックのラームがアンカーを務めたり、ハビ・マルティネスが10番の位置に入るなど、選手の配置によって観客を驚かせることも少なくなかった。

 90年代からハインケスが指摘し続けたドイツサッカーの戦術的な欠陥を解消しつつあるブンデスリーガで、時代の先端に立とうとしているペップ・バイエルンの潜在的な能力はまだまだ眠っていると感じざるを得ない。チャンピオンズリーグでの敗戦によって、来シーズン、いかに修正してくるのか、という楽しみが増えてしまった。


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【目次】
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第2章 クライフとの共闘
第3章 偉大な監督たちとの共感、そして摩擦
第4章 世界を巡った現役晩年
第5章 バルセロナへの帰還
第6章 カタルーニャ・ナショナルチーム監督
第7章 バルサに再度導入されたクライフ主義 など
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