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「醜いサッカーに徹しなければならないこともある」。理想論では勝ち抜けないW杯。必要なのはクラッキではなく“うるさい”奴

text by 田崎健太 photo by Sachiyuki Nishiyama

守備サッカーに批判も「ショーはサーカスでやっておけ」

 W杯期間中、ブラジル代表が最も追い込まれたのは、ベスト16の地元アメリカ代表戦の後だったという。

 当時、アメリカにはプロリーグが存在せず、「サッカー後進国」という位置づけだった。ブラジルはそのアメリカを相手にして1-0の辛勝に終わった。

 ブラジル代表の戦術は、ボランチのドゥンガを含めて、中盤から固く守り、ロマーリオとベベットという強力な2人のフォワードに素早くボールを繋いで点を獲るというものだった。

 中盤からパスを華麗に繋ぎ、時にサイドバックまで前線に上がって行く攻撃的なサッカー――ブラジル人が愛するジョーゴ・ボニート(美しいサッカー)とは極北に位置する。

 ブラジル代表は70年大会以降、W杯優勝から遠ざかっていた。ジョーゴ・ボニートを体現した、ジーコやソクラテスのいた82年大会は敗退している。

 24年ぶりのW杯獲得はブラジル国民全てが望んでいたことだった。しかし、このままではアメリカ大会でも優勝は難しいだろう。守備的なサッカーを苦々しく見守っていたブラジルメディアは、アメリカ戦の後、さらに激しく批判するようになった。

 そうした空気は当然チームに影響を及ぼす。そこで、アメリカ戦の後のミーティングで、ジウマールはこう檄を飛ばした。

「我々はアメリカまで何をしに来たんだ。W杯に勝つためだ。どのようにしてこの大会で勝つんだ。ショーのようなサッカーをするのか? スペクタルなサッカーか? ショーはサーカスでやっておけ。我々は勝たなければならない。W杯では勝つためのサッカーをやり続けるしかないんだ」

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