※『僕らがサッカーボーイズだった頃 プロサッカー選手のジュニア時代』より一部転載
向上心をもつことが、高いステージへの道標
2012年4月21日、11-12ブンデスリーガ第32節のボルシアダービー。
ドルトムントがボルシア・メンヘングラッドバッハを1対0でリードし、迎えた後半14分の出来事だった。
左サイドバック・シュメルツァーのロングパスを、左サイドに流れたFWレヴァンドフスキがキープした。この瞬間、23番をつける小柄なアタッカーが猛然と前線へ飛び出す。そして、レヴァンドフスキのリターンを芸術的なファーストタッチでコントロールし、すばやく相手GKをかわして、思い切り左足を振り抜いた――。
ゴールネットが揺れるやいなや、シグナル・イドゥナ・パルク・シュタディオンに詰めかけた8万人を超える大観衆から凄まじい歓声が沸き起こった……。
非常に難しいといわれたドルトムントのリーグ2連覇を決定づける値千金の2点目を叩きだしたのが、日本代表のエースナンバー10・香川真司だった。
「FCみやぎバルセロナにいた中学生から高校生の頃も、このゴールと同じような得点シーンばかり見てきました。その頃は今より全体のスケールを小さくしたような印象でしたけど、状況判断力とファーストタッチのクオリティ、体のバランスのよさは抜群でした。世界中に知られるような選手になるという確信はなかったですが、そうなってほしいという期待と願望は、僕ら指導者にはずっとありました。実際、真司は常に妥協せず、向上心を持ってサッカーに取り組んでいました。もともと目標設定の基準が高いですし、次のターゲットをすぐに見つけられる。それをクリアすることで、自分の中でどんどん自信も深めていったんでしょう。だから、あのステージまで行けたんだと思います」
香川が中学1年生から高校2年生まで過ごしたFCみやぎバルセロナでコーチを務めていた柴田充さん(ACエボルティーボコーチ)は、教え子の活躍を心から喜んでいた。
柴田コーチのみならず、彼に関わった指導者のほとんどが「あそこまでサッカーが好きで、とことん上のレベルを追求する子を見たことがない」と口を揃える。そして、香川本人も「大きな夢と目標を持ってずっとボールを蹴ってきた。自分にとってサッカーは人生そのもの」と言い切る。
幼少の頃から、それほどまでに大切だったサッカーと彼はどう向き合い、プロの道を切り拓いたのだろうか……。