「才能とは何も持って生まれて来るものばかりじゃない」
「知っての通り、この僕に“マルコ・ファンバステンのような華麗な足技”は無かった。残念ながら……。でも、だからこそ僕は、それこそ“ゴールへの執念”というヤツでその差を埋めようと努めてきたんだ。もっとも、ホントそれ以外に別の手段が僕にはなかったからね(笑)。
なので、まさに“すべて”を現役当時の僕はサッカーだけに捧げていた。それこそ食事を含めた普段の生活からトレーニングとその後のケアに至るまで、すべての試合ももちろん、きっと誰よりも高い集中力を持って臨んでいたという自負がある。
そして自宅に戻れば次に戦う相手DFたちとGKを研究しては彼らの弱点を見出そうと、ここでも研究を重ねることで万全の準備を整えていた。それこそセリエAにデビューした1995年(8月27日)から現役最後の試合まで変わらずにね。
そして今、監督となった僕にとって、そうしたあの頃の経験があらゆる場面ですごく活きていると思うんだよ。要するに、選手たちに何をどう教えるかという問いに答えれば、まさにこの“集中力”と“重ねる努力”がいかに大切かってこと、それを繰り返し若い彼らに伝えているんだ。
もちろん、その中には例の『ゴール感覚』も含まれる。つまり、才能とは何も持って生まれて来るものばかりじゃない、キャリアを重ねる中で“培うことが出来る”ということだね。で、まあ、もしかするとこの僕こそがその最たる具体例とも言えるんじゃないか、と思うけどね。
ゴールを決める瞬間というのは、まさに1秒にも満たない一瞬の判断のことを指すわけだ。つまり、そのコンマ数秒の集中力で敵のDFを上回れば点は獲れる。局面ごとに自分がどう動いているのか、対する敵がどう守ろうとしているか、GKの位置は、そして味方がどう動いているか。ボールはどの角度からどんなスピードで入ってくるのか……それらすべてを視界に捉えては五感をギリギリまで研ぎ澄まして一瞬に備える。
これこそが、いわゆるゴールするための僕なりの“秘訣”であって、もちろん今、監督として僕は選手たちにその意味を懸命に伝え続けている。もっとも、ここでいう“トレーニング”の実態は秘密だけどね(笑)」