殺人も躊躇しない現地の無法者たち
ぼくが昨年上梓した『キングファーザー』(カンゼン)はカズこと、三浦知良さんの父親、納谷宣雄さんを主人公としている。
本の中で、納谷さんの飼い犬が盗まれ、事務所の壁が爆弾で穴を開けられ、金庫ごと盗まれた話を書いた。
この手の話は枚挙にいとまがない。
――日本人観光客がサンパウロの旧市街を歩いていて、身ぐるみ剥がされた。
――リオの海岸を撮影していたテレビスタッフが機材を一式盗まれた。
――オートバイで車の後をつけられ、高級腕時計を奪うために腕を切り落とされた。
ブラジル人はごく限られた場所を除いて、華美な時計はしない。カメラを首から提げて歩くこともない。人通りのあるところでは財布を取り出さない。こうした習慣で身を守っている。
それでも不可避な場合もある。
W杯期間中は“アハストン(arrastao)”の心配がされている。アハストンとは、ブラジル・ポルトガル語で〈トロール網〉のことだ。
夜の繁華街、バーなどにピストルを持った、5、6人の人間が現れる。彼らは店にいる客、店員たちを脅して、金目のものを全て持ち去る。一気に金品を引き上げるので、トロール網――アハストンと呼ばれているのだ。
アハストンは店だけでなく、リオのイパネマ海岸など観光客が多く集まる場所が狙われる場合もある。
万が一、こうした事件に巻き込まれた際は抵抗しない方がいい。彼らは人を殺めることに躊躇しない。運がなかったと持ち金を全て渡すのだ。
ブラジルのサッカー界ではしばしば「ずるがしこさ」を意味する、マリーシアという言葉が使われる。ブラジル・リスクを避けるためには、普段の生活からマリーシアが必要になってくる。
【了】