【第七話】がらくたを縮小
Shrink Crap
ジプシーとなって都内、都下、時に埼玉や神奈川を彷徨う銀星倶楽部女子部の、きょうの練習場は国立市の河川敷公園サッカー場だった。
黒いヘッドギアと、それに似つかわしくない空色のピンタックフリルワンピースを身につけたちいさな女の子が、土手から練習を見守っている。ワンピースはすっきりしたデザインで、スリムな体型を際立たせていた。
うしろ姿でも誰かは見当がつく。
「具合はどう」と訊ねるとチカは振り返り、人差し指と親指で丸をつくって「ばっちりです」と言う。
このほど実用化された新型人工内耳の取り付け手術に踏み切ったのは一カ月前のことだ。チカは医師と医療機器メーカーの話をよく聞き、自分ひとりで決断した。保険が適用されることで金銭面での不安はない。障害者資格とろう者サッカー公式戦での扱いがどうなるかは未定だが、タチアナと戦い勝つことが目標になったいま、迷う理由はなかった。
ナノテクノロジーを応用し、生命工学や生体工学の粋を尽くした新型人工内耳は、外部装置をいっさい必要としない。そればかりか生体部品を使用して衝撃にも強く、サッカーをプレーするうえでの障害となることもない。
中途失聴者であるチカはもともと発音をよく憶えていて話す機能の回復が早い。この調子だと、聴力も軽度の聴覚障害者と同じと言えるくらいになってきているようだ。副作用を観察する必要はあるが、心配よりも得るもののほうが多い施術だった。
全治は五週間、もう少しするとヘッドギアを外せる。もっとも、用心には用心を重ね、復帰してもしばらくはヘッドギアを付けてプレーするように、と医師には命じられている。
「みんなは秋のカップ戦に間に合えばいい、ゆっくりしろって言うんですけど、ポジションなくなっちゃうんじゃないかって心配で」
チカはそう言ってはにかんだ。かわいかった。これまではじっくりと彼女の顔を見たことがなく意識していなかったのだけれど、間近で見るとはっとさせられる。睫毛が長くぱっちりとした二重の眼を開いて笑う彼女は、かなりの美少女と言っていい。
「みんな心配してるんだよ」
「そうでしょうか」
心なしか口調がおとなびて、実年齢――ことしで二二歳――にふさわしい会話になってきている。もともとこういう話し方だったのだろうか。
そんなことを考えていると、ぼくが見惚れていることに気づいたのか、チカはいたずらっぽい上目遣いでこちらを睨んできた。
「何?」
「いいんですけど、見つめる相手がちがうんじゃないですか」
「それはどういう……」
するとチカは苦笑いをした。
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