【第五話】真新しい家
Like a brand new home in town
南砂町駅から出てコンビニエンスストアに立ち寄り、工場群を縫うように通った一本道を歩くと、三〇分ほどで新砂運動場に着いた。
パイプが縦横無尽に走る化学工場はディストピアもののSF映画に出てくる奇怪な都市のような威容をほこり、歩行者を圧迫する。
その迫力に魅入られながら、あるいは眼をそむけながら歩いた路の終わりでは、物流センターからあふれたものか、風に吹かれた紙くずが散らばっている。
そして気が滅入るような曇り空。
都会のフットボールクラブには似つかわしい風景なのかもしれないけれど、綠あふれる理想的なスポーツ環境には程遠い。
コートに敷かれた人工芝は旧式のまま。
これがいま、銀星倶楽部に与えられた練習場だった。
インテルクルービは年内いっぱいと言わず、男子のリーグ戦終了と同時に湾岸スタジアムとその付帯施設の使用を始めた。形式上は銀星倶楽部がキャンセルしてインテルクルービが残りの日数分、日割りで料金を払った恰好になっている。男女両トップチームがカップ戦の日程を残しているからいいグラウンドで練習したいというのが、インテルクルービの言い分だった。
銀星倶楽部トップチームはリーグ戦終了と同時に解散していたから実害はない。むしろ経費削減になって助かったと、松重は喜んだ。トップチームが追い出されたというのに、看板をインテルクルービに掛け替えただけの、アカデミーのコーチと子どもたちが、そのままガーデン・オブ・ザ・ベイを使っていられるのは皮肉だった。
ゆえにインテルクルービの女子部であるインテルクルービメイデンが常用していたこの新砂運動場は年内いっぱい銀星倶楽部のものだ。使用料もインテルクルービ持ち。と言っても、トップはもう解散している。結局「女子部になる予定」の里昴たちが使うことになった。
視界が灰色に充ちていても、あちこちの市民グラウンドや野原をジプシーのように転々としていた女子部にとっては、ようやく訪れた楽園だと言っていい。クラブハウスもついていて、恵まれた部類に入る施設であることにはまちがいない。
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