「あいつがヴェルディで活躍する姿。いまだにそれを夢見る気持ちはありますけどね」
父と子の生活の拠点は別々になったが、サッカーを中心に養育においてはそれまで通りの間柄を保った。試合の送り迎えやピッチ内外の生活指導など、主にスポーツ担当である。
「まぁ、そんな感じです。何かあったらいつでも駆けつけられるように近くに住んでいましたので。娘はふたりともバスケをやっていて、長女は鍼灸師の専門学校に通い、次女はスポーツマネジメントの方面に興味があるみたいです。
そういえば、こないだ長女は祐希にトレーナーさんを紹介してもらい、話を聞かせてもらったとか言ってたな。それぞれの道を歩み、兄妹助け合ってやっていってくれればうれしい」
そう語る父は、Jリーグ開幕の頃からヴェルディのファンである。1992年のヤマザキナビスコカップには、生後半年の息子を抱っこして連れて行った。自宅でテレビ観戦のときは、食い入るように画面を見つめる父の横にちょこんと座って一緒に見ていた。
「あいつがヴェルディで活躍する姿。いまだにそれを夢見る気持ちはありますけどね」
しんみりした空気が漂い、僕たちはしばし黙り込む。店内には有線放送だろうか、中島みゆきの『時代』が流れていた。70年代にヒットし、多くのアーティストにカヴァーされてきた名曲だ。生きる喜びと悲しみ、出会いと別れを経験しながら、人は旅を続ける。